作業を通じて芽吹く絆|2026年度長期インターンシップ生 びーん

あっという間に五月が過ぎ去り、毎日のように食卓に上ったワラビも、今ではすっかり背丈が伸びて夏の訪れを感じます。 だいだらぼっちのある泰阜村の田本地区は標高が500m近くあります。私の地元である横浜と比べると夜の冷え込みは厳しく、まだ羽毛布団が手放せない日々が続いています。

5月の大きなイベントとして2泊3日のゴールデンウィーク合宿(以下、GW合宿)が開催されました。だいだらぼっちの暮らしに必要な薪割りや母屋の修繕など、こどもたちだけではできない作業を、OBOGや保護者に力を寄せていただき一緒に行います。

目的を見つめなおしながら3日間のスケジュールを決め、総勢100人近い参加者の指揮を執るのは、先頭に立つこども自身です。

(当日の薪割りの様子)

私は全体の役割として、「ナース・風呂焚き・会計・施設案内係」を担う2人の女の子とともに準備を進めました。

私も一年目の2人も何もわからないところからスタート。4つの役割の具体的な仕事はなにかを整理しながら準備を始めました。

しばらく話し合って、わかったことは、「何が分からないのかさえ、まだ分かっていない」ということでした 。考えることも大切だけど、経験者に聞いてみるのもいいかもしれない、という話になり、昨年度のメンバーに聞いてみることに。そうすると出てくる出てくる新しい情報。会計の時にたくさんの人の宿泊情報を間違いなく照らし合わせるための道具を教えてくれたり、施設案内係としてテントを安全に設営できる場所を学んだり。私たちは当たり前のように毎日入っているお風呂も、「ちゃんと入り方を伝えないとわからないよ」と、過去の失敗談などを踏まえて話す経験メンバーの言葉もあり、当日の解像度がどんどん上がっていきます。

情報をもとに、今年はどうしていくかを考え、段取りをとります。

「お風呂の入口に男女の案内板を貼りたいけど、雨で濡らしたくないね」

「お布団の移動はみんなに手伝ってもらおう」

漠然とした責任を感じながらも、自分たちが決めたことで全体が動いていく過程にやりがいを感じ、準備そのものを楽しんでいたことを覚えています。 

 

GW合宿の始めの会である「寄り合い」で、各役割ごとに参加者にお願いしたいことを伝えるのですが、その時に話す内容や言葉もこどもたちのお手製です。

大まかな伝えたい内容は係のみんなで決めて、ここのセリフは△△さんが と、内容ごとにこどもたちが役割分担をし、出来上がったものを持ち寄ることが多くあります。しかし2人は、あえて役割分担をせずに、全セリフを2人で話し合って決めることを選択しました。

ところが、これが想像以上に大変。2人が伝えたいポイントや順番の違いや、どれくらい丁寧な言葉遣いにすればいいかなど、小さな小さなモヤモヤを一つずつ確認し、2人で話し合いながら乗り越えていきます。思い通りにならなかったり、他の役割との兼ね合いで作業できる時間をなかなか見つけられなかったり、うまくいかないことばかり。しかし、GW合宿は刻一刻と近づいてきます。焦りばかりが募る一方で、作業は一向に進みません。二人は、言葉にならない憤りや葛藤と向き合い続けていました。 

 私が引っ張り、代わりに文章をつくることはとても容易なことです。しかし、それは2人にとって最善なことなのかと、私は毎回自問自答していました。いつ手を貸すのか、どれくらい介入するのか、マニュアルや正解があるわけでもない問いに対し、私も私で悩みます。夜な夜な一人で反省会を開いては、「明日はもう少し笑顔で話せる時間を作ってみよう」「まずはスケジュールを再確認しよう」と小さな目標を立てて臨みました。それでもやってみては上手くいかず、また夜な夜な考え込む日々でした。二人の間が険悪になり、ケンカが始まりそうな雰囲気になるたび、つい手を差し伸べそうになりましたが、彼女たちの持つ「言葉の力」を信じて、ぐっと堪えて見守ることも多くありました。 

ほんの少しずつではありますが、確実に前に進んでいるという手応えだけを頼りに、私含め3人で当日を迎えました。 

 

 2人の最後の難関は、「息を合わせる」ことでした。

寄り合いで「よろしくお願いします」と息をそろえて言うこと。

一見すると簡単なことのように思えるかもしれません。しかし、 この一言を何十回も練習しました。これまでの準備期間の中で、2人は何度も意見がぶつかりました。どんな言葉を使うのか、何を大切にして伝えるのか。そのたびに立ち止まり、話し合い、納得できる形を探してきました。

 だからこそ、「よろしくお願いします」を一緒に言うということは、単に声を合わせることではなく、それまで積み重ねてきた時間や、お互いへの理解、相手を信頼しようとする気持ちがあってこそできるものです。 苦労しながら練習する姿を見ながら、人と人との関係は話し合いだけで深まるものではなく、一緒に悩み、苦労し、何かをつくり上げる過程の中で育っていくものなのだと感じました。

 

(3人で乗り切った3日間はかけがえのない宝物です)

 当日の寄り合いは、練習の甲斐あって、想いの伝わる発表になりました。一言一句に2人のこだわりが詰まっています。お互いが話すセリフを完璧に覚えているため、情報の抜け漏れがあったら補いあっていたのもさすが二人の連携!と思いながら発表を聞いていました。

 GW合宿の本番中には、会計の精算で数字がぴったりと合わず、三人で冷や汗をかく場面もありました。(のちに単純な足し算のミスだと判明し、心から安堵したのも今では微笑ましい思い出です笑)風呂の温度調節に失敗して灼熱のお風呂を沸かしてしまったり。今では、「あの時は大変だったね」と三人で笑い合える関係になることができました。 

 私が一番うれしかった出来事は、GW合宿が終わった後にありました。ある日、二人が風呂焚きの担当をしていました。普段なら30分ほどで焚きつけを終えて戻ってくるのですが、その日は1時間経っても帰ってきません。心配になって様子を見に行くと、焚口で二人が笑いながら雑談をしていました。

GW前には、2人で話す場面を見たことは少なく、準備中もお世辞にも相性がとてもいいと言える関係性ではなかった二人。 しかし、話し合いを重ね、本音をぶつけ合いながら一緒に準備を進めたことで、少しずつ心を開き始めたのだと思います。風呂焚きそっちのけで話している姿を見た時、思わず涙が出ました。外から見ればとても小さな変化かもしれません。しかし、悩みながら関わり続けた日々を知っている私にとっては、とても大きな出来事でした。

心身ともに疲れることもありましたが、それ以上に、人と人との関係が育っていく瞬間に立ち会えたことは、何にも代えがたい財産だと感じています。

 GW合宿を通して私が考えたのは、人との関係は「仲良くなろう」と思うだけでは育たないということです。

 話し合いがヒートアップしたり、ケンカ口調になる裏には、今まで見えていなかったお互いの考え方や価値観が顕在化したというポジティブな変化が隠されています。口論になって、相手の考えに理解ができずにお互いを避けたり諦めたりするのではなく、相手の新しい一面を知ることができたことを踏まえて関係性を作り直すことが大切です。今回の場合、「GW合宿を成功させたい」という共通の目的に向かって関わり続けたことで、互いを理解しながら少しずつ2人の関係が深まっていったのではないでしょうか。

 その空間で自分のあるべき姿はなんだろうと考えた時に、こどもたちの目線に立ちながらも一歩先を見通し、関わり合うことを諦めない雰囲気をつくることなのではないかと考えます。大人が正解を示したり、問題を先回りして解決したりすることは簡単です。しかし、それでは本人たちが悩み、考え、関係を築いていく機会を奪ってしまうことでもあります。どんなことで悩んでいるかをこどもたちの目線で考え、どの方向に向かって次の一歩目を歩みだせばいいかを話し合い、合意をもとにやってみることが大切だと学びまし

だいだらぼっちにおける作業や役割とは、単なる「こなすべき仕事」ではありません。人と人とが真っ正面から交わり合い、関係性を育むための、「きっかけ」なのだと感じています 。

そのきっかけをいかにして意味のあるものにするか。これからも悩み、考え続けていこうと思います。