クリエイティブな感覚を総動員させて ~青森大学地域産業論その1~

「青森大学」をご存知だろうか。
国立大学ではない。
青森県の国立大学は「弘前大学」だ。
「青森山田学園」と聞くと、ああ~とうなずく人も多いかも。
サッカーなどが強い青森山田高校と同系列の私立大学だ(学校法人青森山田学園)。
昨年度もぼちぼち授業に関わっていたが、今年度からきちんと授業を受け持つようになった。
なぜ青森大学?という経緯については、またいずれ紹介したい。

私は東京キャンパスに配属されている教員だ。
江戸川区の広大な中学校跡地がキャンパスになっている。
コロナ以前に、そもそも青森大学は遠隔授業のシステムが先進的だった。
昨年度もすでに東京キャンパスの授業を青森本学に配信していた。
だから、コロナ禍でオンライン授業になっても、ほとんど混乱なく授業運営ができた数少ない大学だ。

しかし、私が信州泰阜村から配信するとなると少し戸惑う。
東京キャンパスと青森本学に同時配信する。
東京キャンパスの学生はオンラインでZOOM参加。
青森本学の学生は大教室で対面参加となる。
しかも、これをアクティブラーニング型に運営するというリクエストが課されている。
当初、履修学生は50人くらいだろうという大学側の予測だった。
が、蓋を開けると150人。
何から何までクリエイティブな感覚が総動員される。
「挑戦、挑戦、想い通りにならないことを楽しむ」と自分に言い聞かせる。

この科目は「地域産業論」という。
主に本学の社会学部の2年生と、東京キャンパスの総合経営学部2年生が履修する。
本学の2年生はやはり東北出身が多い。
東京の2年生は全員留学生だ(中国、ベトナム、ウズベキスタンなど)。
首都圏出身の学生が多い大学と違って、出身地が廃れ切っている学生も多い。
「地域」や「産業」という言葉が彼らに重くのしかかるが、逆にいえばそれらの言葉が実態を伴って学生に届く。
将来を「大企業」や「大都市」とイメージしがちな彼らに、もう一度足元の価値に目を向けてもらうねらいもある。
とにもかくにも9月に授業が始まった。

ZOOMの画面には20くらいの小さな分割画面が出る。
ひとつの画面以外は、東京キャンパスの留学生たちだ。
チャットだとやりとりできるが、自宅のWi-Fi環境が脆弱なためカメラをオンにはしてこない。
残りのひとつの画面が問題で、この小さな画面に青森本学の130人の学生が映っている。
大教室でディスタンスをとりながら受講しているのだろう。
学生の表情や動きは全くわからない。
しかも、前期でオンライン授業のいろいろはもう学生たちもわかっているから、ほとんど新鮮味もなく、学習意欲もかなり低い状況でのスタート。
こりゃなかなか手ごわいな、と正直感じる。
さて、この授業をいかに参加型でおもしろくするか。
そこが腕の見せどころだ。

全員がZOOMに入っているなら、チャットに学生からの感想やコメントを入力してもらえる。
が、ZOOMには20人のみで、残り130人は大教室に映されるZOOMの画面を見ているだけなので、全員がチャットにはアクセスできない。
小さな画面の130人にいくら呼びかけたところで、いつもなら大教室でも展開しているアクティブラーニング型の進め方はほぼ不可能。
私と150人の学生との連絡システムや授業中のやりとりにはLINEを活用。
150人の学生同士のコメントやりとりは、Googleのスプレッドシートを活用して一斉に見える化した。
スプレッドシートは匿名をいいことに、卑猥な言葉を入力するような非協力的な学生もいるが(そんなことは織り込み済み)、おおむねその威力に驚き、協力的だ。
その威力とは、全員のコメントが一斉に見える化できることだ。
隣に座っている、あるいは隣の画面の学生の、今の想いやコメントが、手に取るようにわかる。
しかもチャットと違い、流れていかない。
大教室の対面授業では難しいと言われている、履修生同士の学びのシェア。
青森本学の学生たちも、スマホで一所懸命に入力してくれた。

LINEのシステムも好評で、スマホでスプレッドシートにアクセスできない学生から、ひっきりなしにLINEにコメントが届く。
授業時間外でも質問やおしゃべりなどが頻繁に届き、メールでのやりとりに慣れていない学生たちにとっては、教員の存在や面倒くさい授業履修の仕組みなどが、ちょっとだけでも近く感じたようだ。

前半7回の授業を、「参加型授業の導入」と「地域産業の見方・視点を備える」ことに位置づけた。
そして第8回目を、いよいよというか一度だけ、青森本学のキャンパスで授業することになる。
青森本学の学生たちにはいつも「おーい、ほんとにちゃんと聴いてるかー!?」とZOOM上で呼びかけるだけだった。
「来週、ほんとにそっちに行くからな! 待ってろよ!」
第7回目の授業の最後にこう伝えると、小さい画面の130人の学生が一斉に顔を上げた(笑)
そして一斉にLINEが届いた。
「ほんとに?」「マジで?」「楽しみです!」「会えるの?すげー」「寒いから上着をしっかり」「気をつけて来てください」・・・

次回は青森本学での授業の様子などを紹介する。
その2につづく(ほんとにその2があるかなあ(笑))

代表 辻だいち