人口減少・東京一極集中が進む中で 村長レポート 11月20日 No.260

わが泰阜村の村長が、就任以来毎月毎月、村民に向けて発信する「村長レポート」。
ちょっと時間がたってしまいましたが、2017年11月20日号を紹介します。

先月取り上げたとおり、本年度最大の行事であった泰阜村の二車線道路南北縦貫大願成就祝賀会が終わり、ほっとして1ヶ過ぎました。阿南町へ向かう時、田矢踏切を通過しなくていいのでスムーズになったなあ、と思います。ただ、旧県道を温田の方から南宮大橋交差点で出るところで、大橋側の見通しが悪いとの声をいただいております。当面、気をつけてほしいと思います。

 さて、11月12日の日曜日に、日本自治学会という団体の第17回目の総会があり、合わせて研究会も開催されました。その分科会の一つ「東京一極集中と地方創生」で発言してほしいと声がかかり行ってきました。最近は、このような機会も少ないのですが、意見を言う三人のうち、私以外のメンバーが良かったので、勉強と思い行くことにしました。一人は、人口減少により「消滅自治体」が発生するという衝撃のレポートを出した日本創生会議の「増田寛也氏」元総務大臣、全岩手県知事で、最近では、東京都知事選挙に自民党の推薦で出て小池百合子知事に負けた人です。増田氏の言葉では、小池さんに蹴散らされた、ということです。いま一人は、首都大学教授の「山下祐介氏」、青森の弘前大学時代から、現場をきちんと見る研究者として、過疎問題などを発信してきた先生。特に、増田寛也氏のレポートに対し、「地方消滅の罠―増田レポートと人口減少社会の正体」という本を出しました。私もすぐ購入し読みました。地方の山村実態をよくわ分かっていてくれる、と思いました。この二人といっしょで、私の役割は、山村の現場から人口減少といまの地方創生という国の施策をどう考えているか、述べることでした。

 あの増田レポートで2040年までに「消滅自治体」と言われたところが896あるのですが、泰阜村は、消滅自治体に入っていなかった、ということは別の機会に書きました。ところが下伊那の中でも、豊丘村が入っていたり、東京都では、豊島区、愛知県では、新城市が入っていました。この報告では、20歳から39歳の女性の数に注目した推計ですが、下伊那に住んでいる私の感覚でも、実態とは違うなあ、という印象です。増田レポートに対しては、私は、下伊那の例を上げながら、自治体に衝撃が走ったけれど、住んでいる者の感覚としては、数字だけの印象で実態とは違う。それでも、人口減少を真正面から捉えなければいけない、という警鐘になった、と言いました。というのも、県も含め、自治体は、法律で10年の総合計画をつくりますが、それまで、人口が減るということを前提に計画をつくるということは、憚(はばから)れました。この辺のところを、山下先生が、人口が減るということを、当たり前に、大胆に言えるようになったという点で、評価できるレポートであった、と言いましたがそういうことです。いま一つの問題は、人口が減る中で、東京だけは増えているという、いわゆる「東京一極集中」です。これは、増田レポートが出てからあとも続いています。

 この人口減少、東京一極集中対策で「地方創生」という施策になりました。当日も議論になったのですが、なぜ東京へ若者が集まるのか、ということです。飯田下伊那でいえば、やはり高校卒業して大学へ行く時に、多くが都会で出ます。そのあと、帰る率が低いという現実があります。これを働く場所、仕事がなから、という見方が多いのですがほんとにそうだろうか、と思っています。仕事を選ばなければ、という前提ですが、仕事はあるのでは。東京に魅力があるから、という意見もありました。山下先生は、国の権限、財源を中央に集中、地方は、人口減少で自治体も財政難、安定的に暮らすために自分で稼ぐ必要がある社会になり、安心して暮らしていけないという不安が地方に強く、都市へ向かわせている、と分析。たあ、会場の参加者も含め、東京一極集中はなぜ起こるか、明確な答えはありませんでした。
 このような状況の中で、地方創生が叫ばれ、地方自治体は、地方創生計画をつくり、人口減少を最小限に留めることになりました。山下先生の話では、そもそも「まち・ひと・しごと」の好循環をつくるために、各自治体がいい案をつくり、それに政府が財源を提供していく、というはずが、まずは仕事から、になってしまった。しごとを優先、つまり稼ぐ力に集中することになった。先ほどの私の意見になるのですが、地方に仕事はないのではなく、あるけれど心理・価値の問題で、それは仕事ではない、ということになっているのではないか、ということです。飯田下伊那でも看護師、介護人材、製造業の現場では、働く人が足りなくて困っています。まち・ひと・しごとの中で、新しい仕事だけが強調された地方創生でなく、その好循環の政策を、という話に共感を持ちました。

 人口減少の中で東京一極集中を是正し、地方にも人口が留まるように、というのが地方創生ですが、今回の学会で勉強したことをまとめてみます。それは、ある程度の規模の雇用創出であり、インフラとしての道路整備、公共施設整備です。これからは、規模での雇用創出は、広域的な課題です。村がすべきことは、村の土地、風土からいくつかの仕事を創り出す、10人の人が10の仕事で生きるような多様性。そして、人とのつながりがある地域、福祉を大切にした安心感、いままでの暮らしや歴史、文化を大切にといった仕事以外の面でも充実感を持てる地域を目指すことです。それが東京にはない魅力のある山村といえます。

今後も、小さな村の首長の言葉を紹介していきます。

代表 辻だいち