だいだらぼっちの暮らしには、日々欠かせない作業がいくつかあります。毎日焚くお風呂や、冬の寒さを乗り越えるストーブのための薪作業、食卓に並ぶ野菜を育てる畑作業、そしてその一つにお米づくりである「田んぼ作業」があります。
田んぼ作業は4月当初から始まります。しかし、一年目のこどもたちにとっては、何をするのか、何が必要なのか全くイメージできず、そもそも田んぼなんてほとんど見たこともない、そんな人もいました。そうはいっても季節は待ってくれません。美味しいお米を育てるためには、時期を逃すわけにはいかないのです。

全員が田んぼ作業に向けて士気を高め、理解を深められるように、まずは相談員のもーりぃが田んぼの話をしてくれました。「田植えをする前にもいろんな作業があって、まずは土作りから始まるんだよ」「田んぼで使われる井水は泰阜村ではとても貴重なんだ」と、田んぼ作業に関わるいろんな話にみんな耳を澄ませます。田植えという大きなイベントの前にたくさんの行程があり、その下準備があるからこそお米がよく育つということを私も隣で驚きながら聞いていました。


翌日、初めての作業は水路掃除でした。田んぼへとつながる井水の水路を枯れ葉などを取り除いて、流れを良くしていきます。思った以上に枯れ葉が降り積もっており、枝や泥や砂もあふれるほど詰まっていました。軍手をドロドロにしながら泥をかき出す子、「終わったよ!」と自分の担当の範囲を終えて手伝いに走る子、一輪車に乗せれるだけ乗せてヨロヨロとしながら運んでいる子。みんなで水路を何度も確認しながら、「早く流れてこないかな」と作業を進めました。チョロチョロっと水が流れ出したときは、みんなで手を叩いて大喜びしながら、水の貴重さを感じました。


その日の午後は、田んぼに牛糞とケイカルを撒きました。担当を決めて牛糞を取りに行ったこどもたちから受け継ぎ、みんなで田んぼにばらまいていきます。「くさいーー」と言いながらも、「牛糞って肥料になるならめっちゃ貴重じゃん」「少しずつ分けて撒くと均等だよ」と試行錯誤しながら、初めての田んぼ作業を楽しんでいました。全体的に予定よりも早く進み、余った時間で川遊びに山菜採り。遊びや自由な時間は自分で生み出すことを実感した日でした。

その翌週には、田起こしを行いました。肥料を撒いた田んぼの土をクワやスコップを使って土をひっくり返し、よく混ぜていきます。しかし、先週の作業とは大違い。4月とはいえ晴天で夏日だったこの日は、暑さを直に感じ、黙々と土を掘り返す作業に飽きてくるこどもたちがたくさんいました。先の見えない作業に疲れと嫌気が差して、座り込んだり、ふざけ始めたり。やっとのことで3つのうち1つの田んぼが終わり、お昼ご飯。イライラとした様子が多く、今日はこのまま終えられるか、そんな雰囲気が漂っていました。

そんな中、やっぱり作業後のご飯には力がある!木陰で涼みながら、朝自分たちで用意したスタミナ丼を食べ、川の音や鳥の声に耳を澄まし、みんなの気持ちが穏やかになっていくのを感じました。午後の作業が再開すると、なんと午前中の様子が嘘のようにものすごい速さで作業が進みました。お昼ご飯の力もあるとは思いますが、バラバラと作業していた午前中とは違って、全員で団結して息を合わせて作業したことがきっかけになったようです。保護者の方からの差し入れでいただいた「カルパス」を気持ちの拠り所に、「合言葉は~?」「カルパス!!」と叫びながら、みんなで歌ったり、声を合わせて土を起こしたりして、大変な作業だからこそ楽しむという面白さに気づけた時間でした。体力よりも気力が元気の源なんですね。

一方で畑では、お米の苗床づくりが始まっていました。毎日係が変わり、朝と夕方に苗床に水をやったり、天気や気温に合わせてカーテンを掛けて調節します。「今日は水が少なかった」と報告してきたり、苗床の先をヨシヨシしながら大切に育てている姿が印象的で、田んぼ作業が全くわからなかった白紙の状態から、少しずつ自分ごとになっているのを感じました。


代かきの前には、水が入った田んぼを使って、田んぼオリンピックを行いました。田んぼリレーに田んぼフラッグ、田んぼ走り幅跳びに田んぼ土投げ大会。どろどろになりながら、なんにも気にしないで思いっきり遊び、たくさん転げ回って笑い合いました。初めて入った田んぼの感触に最初は恐る恐るだったこどもたちも、汚れる喜び、大はしゃぎする気持ちよさにしっかりとはまり、自分で遊びを作り出すおもしろさを一緒に楽しみました。

いよいよ田植えが近づきはじめ、除草剤を使うかどうかの話し合いが開かれました。2年目、3年目のこどもたちにとっては草取りの大変さ、辛さを知っているからこその使いたいという主張があります。それに対して、美味しい米を作りたい、自分たちの手で作り出しているからこそ無農薬で安全なお米にしたいと思うこどもたちは、反対の意見を主張します。話し合いがなかなか決まらず、無農薬派のこどもたちは村の方にお話を聞きに行きました。どうやったら草取りがやりやすくなるのか、頻度や回数はどれくらいか、自分たちで情報を集めてみんなに共有し、結果田んぼのうち一つは無農薬で作ることが決まりました。自分でやりたいと決めたからには、情報や知識を得て、自分たちで判断する大切さを共に実感することができました。

そしてとうとう待ちに待った田植えの日。前日にはみんなで段取りを取りながら、全体をまとめるリーダーや水糸を張る人、苗を準備する人を決め、息を合わせて植えるための計画を練りました。準備は万端。一歩田んぼに入ると、田んぼオリンピックのときとはまた違った感触で、その冷たさや柔らかさをみんなで感じました。田植えが始まると、一列に並び、リーダーの声掛けに合わせて少しずつ苗を植えていきます。誰かが早かったり、誰かが遅れると全体のスピードも変化します。「こっち空いてるよー」「苗送ってー」と声が飛び交い、田んぼの端から端までみんなで協力しなければ、田植えは進みません。一歩ずつ、ゆっくり、でも確実に植えた苗を振り返って見ながら、こどもたちと目を合わせて「均等になっている!」「みんなの苗がつながってる!」と気付いた喜びは忘れられない時間だと思いました。

それから、毎週のように田んぼの草取りが始まりました。やはり、除草剤を撒いていない田んぼは草が多く、時間もかかりますが、頻度を多くすることや雑草が生えやすい時期を想定して草取りに行くという知恵を教えてもらったことで、ぐんぐんと苗は大きく育ってきています。それでも、草を踏み分けて草取りをするのは一苦労。時々サボってしまう人や、遊んでしまう人も少なくはありません。互いに注意し合って、それぞれの美味しいお米を目指して頑張っています。

こうして夏までの田んぼ作業は進み続けていますが、こどもたちと共に初めての田んぼ作業を知り、学び、踏ん張っていく中で、田んぼ作業が体験から暮らしの一部に変わっていく感触を感じました。はじめは全く分からずに物珍しい気持ちで作業していた自分から、その作業一つ一つに意味があることに気づき、大変さや苦労も感じながら、今では草取りで苗を見分けられるおもしろさに出会うことができてきています。この苗がどんなふうに大きくなるのだろうと先を見通しながらこどもたちと話せるようになった今は、田んぼ作業が自分の暮らしに不可欠になっているのかもしれないと感じました。

同じようにこどもたちもこの田んぼ作業が一度きりの体験ではなく、経験として積み重なっているように感じました。長期にわたって季節や成長に合わせて向き合い、作業を続けるため、楽しいだけではない、コツコツと続ける大変さや仲間とのぶつかり、面倒くささも感じます。言われたことを作業するのではなく、自分で決めて自分で行動するため、さらに責任も伴います。大変です。
それでも、田んぼのある暮らしはこどもたち自身が必要としていながら、挑戦してみたい、やってみたいという目的があるため、「やめる」という選択肢は全くありません。自分達で美味しいお米を作りたいという思いを原点にして、話し合いをしてきたからこそ、除草剤を使わないと決めたからこそ、毎日田んぼ作業を続けてきたからこそ、自分事として考え、自分たちで作り出すという意識が芽生えているのではないかと感じました。お米づくりという目的の上で、その過程にある仲間との協力や主体的に意見すること、役割と責任を持って行動することなど多様な学びを得て行くのを間近に見て、暮らしは豊かな学び場だと感じました。

田んぼの上にも三ヶ月。時間をかけてみんなで作り上げてきた田んぼ作業はまだ続きます。
収穫の時期が楽しみです。

2024年度一年間長期インターン生。長崎県育ち長野県出身。信州大学4年生(休学中)。教育学部でよりよい学び場を模索する中、暮らしや手間の中にある「考える」おもしろさと地域を根っこにした教育に関心を持ち、グリーンウッドのインターン生として参加。