こどもたちが作る!だいだらぼっち劇場|1年間のだいだらぼっちリアル

普段お世話になっている方を招待して、日ごろの感謝を伝える「だいだらぼっち祭り」。創設2年目からはじまった伝統の行事です。今年は10/21、22に行われました。

 

祭りのメインとなるのがこどもたちが台本から考えるオリジナルの劇を上演する「だいだらぼっち劇場」です。今年もこどもたちと台本を一緒に作り、演技のアドバイスもしました。というのも大学時代に仲間と劇団を立ち上げて芝居をしていた経験を買われてのこと。まさかこんなところに生きてくるとは、です。

 

さて今年大変だったのは、祭りまでの時間が短い!ということ。10月末に6年生の修学旅行があったり、11月にだいだらぼっちの説明会が控えていたりと予定が詰まっていたため、早めに開催することを7月に決定しました。昨年はコロナのこともあって12月に行いました。雪に見舞われ底冷えする中での開催を考えると10月は良い季節です。しかし!台本を作って、劇を完成させるにはめちゃくちゃ厳しい期間です。

何よりだいだらぼっち劇場の難しいのは、

・台本を作るのは「やりたい」と手を挙げた台本隊が作る

・照明と音響以外のこどもたち全員に役をつける必要がある

・オーディションで配役を決めるので、誰がどの役になるのかわからない

ということです。

ひとつめの台本隊ですが、ここの人間関係によってスムーズになるかどうかが決まります。普段の人間関係とコミュニケーションがそのまま出てきます。例えば誰かがアイデアを出しても、「わたしはそれはどうかと思う」と、すぐに反対したり、「私の意見はなんで通らないの!」と自分本位に進めようとしたりと、台本を作る!という以外にかけるエネルギーの方が大きくかかることがよくあります。

 

ふたつめ。今年は19人のこどもがいるので、照明と音響を抜いた17人の役柄を作る必要があります。40分ほどの劇で17人の役。そして一言だけの端役ではなく、例えセリフの数が少なくてもそれぞれが生き生きとした役にしなければなりません。出番は後半にしかないけど、強烈なインパクトを残したり、一切セリフがないけど、もっとも重要な役だったりと、こどもたち自身が「この役をやりたい!」という愛が生まれるものにするのです。

みっつめ。多数決がないだいだらぼっちにおいて、唯一多数決で決められるのがこのオーディションです。指定したシーンを演じてもらい、この人の方がうまい!と思う人に、挙手するというもの。台本を作っている時は「この役は〇〇が似合うね」と想像しながら書いていますが、実際は全く予想もしないこどもがその役になることもしばしば。いわゆるあて書きと言われる方が、言いやすいセリフを書けるのですが、そういったことができないのです。

9月の土日は文字通り朝から晩まで台本隊はカンヅメとなって、ケンカしながら揉めながら、時にすねた人を慰めたり、放っておいたりして、なんとか書き進めました。むしろこの台本隊をドラマにした方がおもしろいくらいの人間ドラマです。消灯時間ギリギリまでを使って帰るころには薪作業を1日したよりもグッタリしています。

 

毎日のご飯作りや掃除、洗濯に加え、稲刈りなどもある中でなかなか劇の練習の時間が取れなかったり、気分が乗らずにグダグダしながらの練習があったり、かと思うと、これまでの壁を乗り越えていきなり吹っ切れた演技をするこどもが出てきたりと怒涛の毎日を超えて、なんとか本番を迎えることができました。

当日は村のこどもや学校の先生に加え、OBOGたちが集まって160名超!
あまりの人数にビビりまくりながらも、これまでの練習の中で最高の出来を見せられたのではないかと思います。

そんなこんなで出来上がった作品は「漂流パンク!」。船で難破したこどもたちが無人島で対立しながらも島からの脱出を目指すというもの。見ていただいた方たちからは「本当にこどもたちが作ったの?」と驚きの声と感動の拍手をいただきました。

 

ただでさえ「親元を離れて1年間仲間と自分たちの力で暮らす」ことは大変です。この先ほとんどのこどもたちは劇に出ることもないでしょう。そんな中ではたしてだいだらぼっち劇場は何の意味があるのでしょうか?

私は「実感を手に入れる」ことだと考えています。

昨今は学校の教材もキットのようなものとなり、「誰が作っても同じもの」。用意された正解に向かって手を動かすだけです。むしろ「失敗をさせない」ことが教育の場にあふれているように感じます。また正当に評価される場も少なく、「がんばったこと」自体が過度に評価されることも増えています。もちろん成果ばかりを評価するのは間違いです。しかし一方で自分がやったことがちゃんと評価されることがなければ、簡単に言えば「やりがい」がなくなってしまいます。
今回の劇は成功が約束されたものではありません。練習時間をいくら用意しても、こどもたち自身がそこに熱意を込められなければ、お客さんからの拍手はもらえません。いやきっと自分たちのこどもががんばっていれば、家族はみんな拍手をしてくれるでしょう。でも本当に「おもしろかった!」という反応だったのかどうかは、舞台で演じているこどもたち自身が肌で感じてしまいます。その意味でも、自分たちが作りだしたものを、正当に評価してもらうことはとても大事なのです。

0から何かを創り上げること、人前で演じたものをちゃんと評価してもらうことは、こどもたち自身が自分たちで関わり、創り出したという実感を得ます。それは、こどもたち自身のこの先行動する大切な原体験となります。

「自分の行動自体で結果が変わる」その実感こそが、こどもたちの未来を創り出すのだと思います。