やまほいく実地研修inなぎそこども園

長野県で推進している信州型自然保育認定制度「やまほいくの郷」。長野県にある公立、私立の保育園で自然保育を広めていこうという活動があります。グリーンウッドはその研修を請け負っており、今回は南木曽町のなぎそこども園に行ってきました。

なぎそこども園は恵まれた自然に囲まれており、地域と協力して意欲的に自然保育を実践されています。日頃からの保育がやまほいくの理念と合っていて、昨年やまほいく認定を受けられたのは自然な流れと言えます。

どんなことにお悩みなのか聞いてみると、「林の整備で間伐を体験した時に、初めてその意味を知った。」「豊かな自然が当たり前すぎて、自分たち自身がそのよさに気づいていないのではないか。」ということでした。

なるほど。研修は「気づく」をテーマにして、いつもの保育と同じように遊ぶことにしました。いつもと同じということを怠慢に感じたり、刺激がないと感じることはあると思いますが、「いつもと同じ」には大きな価値もあります。視点を変えてみると、いつものことが違って見えます。そんな体験をしてほしいと考えていました。

しかし、当日は雨に加えて寒波の予報です。そんな状況で外に出て遊ぶことに慣れていないこども達にとっては非日常すぎるので、残念ながら変更することにしました。

そこで、室内で自然を体験できる草木染めをすることにしました。染料は、夏にこども達が地元のきこりの方と一緒に森へ入って間伐したヒノキの皮です。園庭のベンチにした時にむいた後の皮も、大切に保管されていたのです。

 急きょのお願いでしたが、こども達はヒノキの皮を薄く細くちぎって準備してくれました。その時に発見したのが「木の皮には茶色いところと赤っぽいところがある!」ということで、2種類に分けてありました。こんなところに気が付くなんて、みんなただ者ではなさそうです。

バケツで水を運ぶ年長さん、頼もしい!

さて、ここからがやっと研修当日。さっそく皮を煮出す準備を始めます。

参加してくれたのは年長、年中のこども達と保育士のみなさん。年少さんが時々見学に来てくれました。これから1時間ほど、ぐつぐつとヒノキの皮を煮出していきます。

茶色の皮と赤い皮、2種類で色水をつくります。

つぎは、ビー玉や輪ゴムで染める布に模様をつける「絞り」の工程へ移ります。輪ゴムで布をギュッと締め付けるのが大変なのですが、グループに分かれて協力してがんばりました。

やりながら絞りが上手になっていくこどもたち

どんどん仕上げていくこども達。大人の手伝いなんて要りません。さて、少し離れて様子をみていた先生達。こどもたちが落ち着いたところで、夢中で絞り始めました。

こどもたちは2枚目を絞る子もいれば余りのビー玉をもって遊びに行く子もいたりと様々でしたが、先生の見守りの中でどの子も自分達で居場所をつくって遊んでいました。先生達のチャレンジを応援してくれているようにもみえました。絆を感じます。

2種類の色水の経過観察

色水が変化してきました。「2つとも色がちがう」「コーラみたい~」「お茶みたいな匂いがする」と、発見や感じることがそれぞれあります。

みんなが期待しているのは、皮の芯と同じ赤やピンク色です。さあ、どんな色に染まるのでしょうか。2種類に分けた色水のどちらに布を入れてるのかグループで相談して、いよいよ染色です。

緊張しながらアツアツの色水に浸していきます

給食の時間もお昼寝の時間もこのまま火にかけておきます。お昼寝の後に蓋つきの容れ物に移し替えて、ゆっくり冷ますことにしました。色水から取り出すのは次の登園の時です。それまでお楽しみに~。

すごく染まってる!どうなるか楽しみ~

午後は、お昼寝の時間でワークショップを行いました。やまほいくの本質へ迫ります。

先生方、2グループに分かれてスタートです。まずは、それぞれ個人で思い出す時間です。今日の活動や普段の保育を思い出して感じたことを書き出してみました。

先生方の感性が光ります。草木染めでは、匂いや感触、湯気の熱さ、こどもたちの表情やいつもと違う姿など、感じたことを丁寧に書き出していました。

グループで共有しながら、似たような内容で分類分けしてみます。

例えば、面白かったこと。どんな色が出るのかワクワクした、どの色に入れようか自分できめたのは面白かった、いいにおい、何回もやる子がいた…など。

危なかったこと。火を焚いていることはわかっているけど夢中になると忘れてしまって近づきすぎていた、保育士が夢中になっている間にこどもがもめていた、1枚の布をみんなで絞っている時に引っ張られて怒っていた…など。

 その本質に着目すると、反対に見えることが同じ分類になったり、似たように見える事が掘り下げていくと違う意味を持っていたりします。これがなかなか難しい作業です。

「崖のぼりって楽しい。でも危ないんだよね~。」と話していたグループ。「崖のぼりの楽しさって何だろう。できるように挑戦すること。できなかったことができるようになること。むしろ、危ないから楽しいんだ。」と、「危ないから楽しい」という言葉ができました。

すると、「保育士が夢中になる姿も、こどもたちにとってはよい刺激になっているよね~。」「けんかやもめごとも、お互いを知る面白さにつながっているね。」「危ないことの境界線ってどこかな」といった具合いに、話が深まっていきます。

普段からよくコミュニケーションがとられているのでしょう。お互いの声に耳を傾け合いながら、丁寧に話し合いが進みました。

終わりの時間が近づきます。少しでしたが、グループで話したことをお互いに共有しました。

少し紹介します。

グループ1:ワクワクや不思議さへの興味が、こどもたちの主体性につながっている。失敗が、工夫する力や次への意欲を育てている。仲間と一緒がからできる、一緒だったらもっと楽しい。またやりたくなる。これを育てているのは“体験”。だから私たちは体験を大切にして保育しているのだということに気づけた。

グループ2:人がかかわることの面白さ、自然物の面白さに着目しながら考えてみた。自然の中には危険がいっぱいあることが際立った。でも、絶対に防がなければならない危険を防げば、こどもたちは危険から「気づく」力を身につけられる。自然の中で活動する価値に改めて気づけた。

みなさんが日々大切にしてきた感覚に、言葉を当てはめてみるといった時間になりました。

最後に、自然の中での活動に不可欠な安全管理についてお話ししました。こどもたちが「危険だから楽しい」にチャレンジできるように、安心して失敗できるようにするための大人の役割について、ポイントを整理してお伝えしました。

「言葉にすることでぼんやりしていたものがくっきりしてきました!自分たちの保育観を整理でき、体験の重要性を再認識できました。」と園長先生。微力ながらみなさんの中にある答えを見つけるお手伝いになったなら幸いです。

後日、染まった布とこどもたちの写真を園長先生が送ってくださいました!写真の向こうからも喜びが伝わってきます。なぎそこども園のみなさんは、これからもパワーアップしていくことでしょう!あふれるエネルギーに刺激をいただき、私にとってもワクワクした研修となりました。