一歩踏み出すその瞬間 ~オキテその4 チャレンジが基本だ~

最近、くだらない大人の事件が多発している。
目を覆うような醜態の数々。
そんな背中を見続けるこどもたちは、どう育ってしまうのだろう。
子どもが子どもらしく生きことができる世の中を創りたい。
そんな想いを胸に秘めつつ、こどもたちが思いきり身体を動かす夏が来ることを信じて、「オキテ」紹介を続けたい。

大人気の「信州こども山賊キャンプ」。
その人気のヒミツに迫る連載企画、第4回。
今回は、「オキテその4 チャレンジが基本だ」

 

その四 チャレンジが基本だ

山賊キャンプでは、いつもチャレンジの心を持つことが基本だ
難しいけれども、乗り越えたときに
君にとっての一生の想い出になるだろう

 

キャンプが始まった初日の夜。本部棟の保健室ではこどものすすり泣きが聞こえる。
ホームシックだ。
親から離れて興奮のまま、バスで移動して、仲間との出会い、初めての食事、初めての自分たちで決めていくことのできる山賊キャンプ・・・。
どれもこれも新鮮で親や家のことなど考える時間などなかったが、さあ寝るぞお、歯を磨けよお、という声がかかると、いきなり周りがいつもの夜と違うことに気づく。
「帰りたい」
真っ暗な山々、風のざわめき、蛙の声、虫の飛ぶ音、そして知らない人だらけ。
さっきまであんなに元気だったこどもが、本当に突然、しくしくと泣き出すのだ。
楽しさのあまり見えていなかった環境の激変に、不安が一気にこどもを襲う。

こんなときには、魔法の言葉がある。
「山賊はチャレンジが基本だよ。お母さんがいなくても寝ることにチャレンジしてみようよ」
もちろん逆効果なときもあるが、こども小さなプライドがくすぐられるのだろうか、だいたいにして「うんがんばる」と消え入りそうな声を出しながらも自分のグループに戻っていく。
そういうこどもほど、次の日からはウソのように元気に遊んで過ごすものだ。

 

一週間を超える長期キャンプの「スーパーコース」。
大きな川に繰り出し、5~8メートルの高さの岩から飛び込む。
その岩場まで行くと立ちすくむこどもがいる。
「早く飛べよ! 渋滞してるよ」
次のこどもがイライラしながら叫ぶ。
でも立ちすくんでいるこどもには聞こえていない。
対岸から見ていたこどもは最初、飛び込めないこどもを見て笑っていたが、いつしか応援の言葉に変わる。
「がんばれ! 大丈夫だ!」
「カウントダウンしてやるから! 3、2、1、ハイ!」
そんなことで飛び込める訳がない。
[こうやってやるんだ、いいか。怖くないって」
順番を待ちイライラしていたこどもが、手本を見せようと先に飛び込んでくれた。
そして下から叫ぶ。
「今、俺がやったみたいにやればいいんだ。怖くないって、ほら」
対岸からも水面からも、そして次の順番を待つこどもからも激励の声が飛ぶ。
立ちすくんでいたこどもは、自分が一人ではないことに気づいた。
みんなから応援されていることに気づいた。
そうなると勇気百倍だ。
あっという間に飛び込んだ。
「いいぞー! かっこいい!」
「よくやったあ! がんばったなあ!」
仲間からもボランティアリーダーからも声がかかり、達成感も相まって、ようやくはじけんばかりの笑顔が飛び出した。

チャレンジとは、今まで自分が安住していたゾーンから一歩踏み出そうとすることだ。
人間はそれぞれに最も快適な立ち位置をもっている。
そこにいると危険でもなく、辛くもなく、おおよそ楽しくて、ストレスもない。
まさしく安住しているゾーンだ。
しかし、その安住しているゾーンに居続けては、成長はない。
人間はまさにその一歩を踏み出すその瞬間に成長するのだ。
人それぞれチャレンジは異なる。
北極を横断することがチャレンジだという人もいれば、隣の人に声をかけることがチャレンジだという人もいる。
チャレンジの量やレベルは数字では測れないのだ。
それぞれのチャレンジを認めることが重要だ。
裏を返すと、そのこどもにとってのチャレンジを見抜かなくてはならない。

山賊キャンプは、こどもたちの成長の支援が可能となるように、プログラムに「チャレンジ」の要素を盛り込んでいる。
自分たちで決めるプログラム、自分たちで決めるメニュー、自分たちで作るごはん、すべてが初めてのことで、一歩を踏み出さざるを得ない構造になっている。
チャレンジの連続。
それは、成長もまた連続することを意味する。
都市ではチャレンジをしなくても、どんどんほしいものは手に入る。
ここではチャレンジしなければ次のステージに進めない。
こどもたちそれぞれのチャレンジが繰り広げられる場、そしてこどもたちのチャレンジを見抜いて背中を押せる場、それが山賊キャンプだ。

 

そして皆さん、山賊キャンプが再開できるように、どうか想いを寄せていただきたい。
今年の夏こそはこどもたちに学びの機会を。

代表 辻だいち