信州に本質的な学びあり ~軽井沢の森のようちえん「ぴっぴ」と風越学園を訪ねて~

軽井沢にいる。
同じ長野県だけれど、わが泰阜村からは遠くてほとんど来ない。
避暑地として栄えたこの地は、北陸新幹線で東京まで1時間少しと、今や通勤圏内。
アウトレットモールなど、都市部の若者が集まる仕掛けが張り巡らされている。
同じ県内でも、泰阜村とは何もかもが違うことに、いまさらながらに驚く。
しかし、私とはあまり縁がないと思っていたこの軽井沢が、今、私と近くなってきていることに、さらに驚いている。

長野県は「森のようちえん」が盛んだ。
自然豊かなこの地域は、幼少期の遊びや学びに自然が欠かせない。
いわゆる「教育県」として名を馳せたこともあるが、どちらかといえば住民自身が学びを通して自治を考える「社会教育」の風土が、森のようちえんの隆盛を支えているのだと想う。
そしてそれを今、長野県が「やまほいく制度」として強く支援するようになっている。

なかでも老舗であり、そしてもっとも有名な森のようちえんのひとつが、軽井沢にある「ぴっぴ」だ。
園長の中澤眞弓さんが、また素敵な人である。
もう20数年来の仲、それはすでに「同志」といえるほど。
彼女の息子さんが、暮らしの学校「だいだらぼっち」に参加していたという縁。
私がまだ20代。
私の結婚式を挙げるときに、泰阜村に留学中だった。
ずいぶんと一緒に泣いて笑ったものだ。
それ以来続く、豊かな縁である。

今回は、彼女から直々に依頼を受けた。
ぴっぴにこどもを預ける保護者を対象に講演をしてほしいとのこと。
暮らしが持つ学びのチカラ、地域が発揮するソコヂカラなど、じっくりゆっくり話をしてほしいというリクエストだった。
暮らしの学校「だいだらぼっち」が始まって34年。
私が関わって26年。
今、私が話せる「地域と暮らしに立脚した学び」を、渾身の想いをこめて2時間話した。
保護者の皆さん、とても熱心に聞いてくれた。

右が中澤さん

森のようちえん「ぴっぴ」の園児の大歓迎を受けて、園児と一緒にランチ。“こいつは遊んでくれる”と思われたのか、最初から最後まで園児にまとわりつかれた(笑)
中澤さんは言う。
「ぴっぴの保護者の皆さんは、宝です。ずっと支えてくださっています。たっぷり愛されている子どもたちは、ご来園くださった方々に素直にウエルカムを表し、しつこいくらいに関わります」
確かにな。
その考え方に共感する。
このまとわりつかれかたは、愛情を受けているからこそなんだな。

彼女は今、長野県の教育委員。
県も大胆ではあるが、逆に言えばそれほど力を入れているということもである。
こういった柔軟な抜擢が、長野県の学びの政策を良い方向にもっていくのだろう。
心から応援したい。

軽井沢ではもう一人、訪ねた。
新しい学校づくりに挑戦中の本城慎之介さん。
今春4月に開校する「風越学園」理事長だ。
校舎が建築中だということで、中軽井沢駅にほど近い準備室に伺う。
若いスタッフたちがこれでもかというほど議論を重ねていた。
その熱気に、私もまた野心を掻き立てられる。
本質的な学びのあり方について、本城さんと意見交換する。
ゆっくりと時の試練を重ねながら、新しい旗を共に掲げる時が来ると確信した。
準備室を出ると、どかんと浅間山がそびえていた。

実は本城さんの息子さんも、暮らしの学校「だいだらぼっち」に参加しているというオドロキの縁である。
中澤さんとも本城さんとも、本質的な学びを実践する者同志、語り合い、議論し合い、研鑽し合えることが心地よい。
やはり縁は丁寧に紡ぐものだと改めて実感。
軽井沢、素敵な時間だった。

代表 辻だいち