こどもが大学生に講義する!? ~こどものチカラを信じたい~

― こどもが大学の授業に登壇する ―

その日、学生もこどもたちも、なんだかソワソワしていた。
立教大学の「自然と人間の共生」という授業。
もうかれこれ10年間受け持っている。
これまで泰阜村の村長やおじいま(“おじいさま”の意味の方言)がゲストに登壇してきたが、こどもが登壇するのは始めてだ。

オンライン授業となり、私が信州泰阜村から配信していることもある。
そして授業当日が、祝日と重なったこともある。
そして、ちょうどこどもたちが外出しない日であったことも。

自然と向き合う暮らし。
それを多方面に紹介することを通して、自然と人間の関係性を考える。
それがこの授業の目標だ。
度重なる自然災害に加え、今年はコロナという自然とどう向き合うかなど、当事者として考える場面が増えた。
その中で、改めて、自然と向き合う暮らしから、何を学んでいるのか、何を得ているのか、そしてそれが行動変容にどうつながっているのか、現在進行形で生きている「暮らしの学校・だいだらぼち」のこどもたちの声を、学生に届けたいと想った。

私が施設を紹介し、こどもたちにインタビューする。
それはそれでカタチになるし、学生にも整理された学びが提供されるだろう。
しかし、それではせっかくのチャンスがもったいない。
こうなったら、こどもに講義自体を任せてみよう。
そう考えた。

― こどものチカラを信じる ―

泰阜村の教育活動において、一貫して持ち続けている信念、伝え続けている想いだ。
それを、大学講義でもいかそうというだけの話だ。
とはいえ、大丈夫かなあ、という想いがなかったわけではない。
ただの活動紹介に終わらないか、学生の知的好奇心に耐えうるものか、などなど不安は尽きなかった。
それでも背中を押したのは、「子どものチカラ、混沌とした暮らしのチカラ」が産み出す学びが、本質的なものと信じるからだ。
やってみよう。
こどもに任せよう。
こどもを信じよう。
あとは、私が責任をとるだけだ。

直前に段取りをとっているではないか!? 大丈夫か?

講義当日、こどもたちの準備はいかほどか、と様子をうかがった。
ところが、どうしたことか講義開始30分前に“段取り”とっている。
オイオイ、そんな直前で本当に大丈夫なの?と、心配のメータが急降下する。
そこからがすごい。
“総まとめ”という司会2人が決まった。
2人とも小学4年生!
その後、60分の持ち時間をどうするかを、決めていく。
前半30分は、施設を回るらしい。
ポイントポイントで、こどもによる施設&活動を紹介しながら、何を学んでいるかを即興で伝える。
後半30分は、学生とガチのQ&Aということ。
時間的に、あれこれアドバイスしている場合でもない。
任せた以上、ハラをくくる。
“やらせなし”の60分一本勝負が始まるのだ。

始まり始まり―

オンライン授業が始まる。
200人の履修だが、リアルタイムではおおよそ140人くらいか。
残りの60人は録画で対応。
いつも通り、チェックインから始まる。
チェックインとは、学びの時間に切り替える、というような意味合いで使っている。
オンラインであっても、一緒に受講している学生140人の息遣いや様子、学びが共有できるように工夫してある。
どんな内容かは、またいずれ紹介したい。

小4の2人(手前)が総合司会。たいしたもんだと心底想う

さて、こどもたちに任せる60分が始まる。
総合司会?のこども2人が仕切っていく。
こどもたちによる食事、ものづくりの紹介、ギターやピアノ、ニワトリのいる暮らし、薪のゴエモン風呂、登り窯などなど・・・自然と向きあう自律的な暮らしをこどもが学生に伝えている。
即興でここまでできるとはほんとにすごい。
動画から抜き出した画像になるが(粗いのでご容赦を)少しだけ紹介する。

毎日30人分以上の料理をこどもが手がけている

和菓子作りに挑戦中

手作りのどら焼きなのだ

器を自分たちで創っている!

お気に入りの手作り食器を紹介

見よ、このドヤ顔!

作成にあたって苦労したことは・・・

草木染めもやっています

つるも編んでるよ

木でお皿とスプーンも作っちゃう

野球好きなのでミニバットを作った!

一か月の段取りもこどもたちで考えます

時間がある時はこんなことも

あんなことも

ニワトリを紹介しますー

薪割り女子

負けてられない男子

五右衛門風呂焚きも毎日の仕事

ほんとに毎日入っています

自然のエネルギー(薪)で器を焼く登り窯です

後半は、150人の学生たちとこどもたちの、オンラインツールを通したQ&A。

学生たちから集まる数十の質問に、優先順位をつけててきぱきと答えるこどもたち。
一切“やらせなし”の純粋な、こどもらしい本音の想いが口から飛び出る(笑)
Q&Aもさることながら、その後がおもしろかった。
「私たちからも大学生に聴きたい」
ということで、学生たちに逆質問。
「勉強が苦手でも大学でやっていけますか?」
「大学で一番楽しかったことは?」
「こどもの間にやっておいたほうがよいことは?」
「将来の夢は?」
そのひとつひとつに、140人の学生からの答えが瞬時に集まり、見える化した。
泰阜村のこどもたちと東京の学生が、まるで対等におしゃべりをしているような時空間。
こどもたちにもよかった。
学生にとっても驚きだったに違いない。
そして、お互いに素敵な学びを手にしたのだと想う。

画面を通して大学生とおしゃべり

こどもたちも大学背も、お互いが興味津々

学生のリアクションペーパー(授業を受けての学び、感想など)には、素敵な学び・感想がびっしりと並んだ。
ここではそれらを紹介することは紙面の都合上、二つだけ紹介する。

「今まで受けた大学の授業の中で今回が一番楽しかったです。せっかくのお休みの日に、今日は本当に素敵な時間をありがとうございました!」

「現在はコロナ禍により、私が描いていた大学生活は送ることができておらず、入学してからまだ一度も大学に行ったことすらない。しかし、そのことを理由にして悶々と過ごしているのはもったいないと感じた。「今」は人生で一回しかないため、この状況下でもできることを楽しみ、色々なことに挑戦しようと思う」

言えることは、いつも言葉少なな学生たちが「こんなに書いてくれるんだ!(笑)」である。
それほど衝撃的な時間だったのだろう。

大学生とお別れ

確信した。
自然と向き合う暮らしが持つ教育力は、大学などの高等教育に十分通用する、と。
泰阜村の教育力をこれでもかというほど纏ったこどもたちが、堂々と大学生に講義した。
こどもたちをここまで輝かせてくれる泰阜村の風土が持つソコヂカラに、感謝したい。

― こどもが大学生に講義する!? ―

そんな大学があってもいい。
人口1600人の小さな山村の村民が教授になる!・
そんな大学があってもいい。
来年はどんな発信をしようか。
どんな学びを紡ぎ出そうか。
この苦しい時期を乗り越えるために、やはり「学び」を追い求めていきたい。

こどものチカラを信じて、自然のチカラを信じて、地域のチカラを信じていきたい。

お疲れさん! さすがだいだらぼっちのこどもたち!

今年1年、本当にお世話になりました。
来る年が希望の1年となりますように。
皆さん、良い新年をお迎えください。

代表 辻だいち