農家冥利に尽きる ~山賊キャンプが織り成す経営循環~

想像してほしい。
信州こども山賊キャンプのこどもたちがひと夏で食べる野菜の量を。
こども1000人超、青年ボランティア300人超。
単純にその合計人数が1日3食、そして平均滞在日数が4日…。
(1000+300)×3×4=? という計算式になる。
その量は膨大だ。

これら野菜のほとんどを(9割程度)、泰阜村の農家が栽培している。
ロジスティクス(ものの流れ)担当のスタッフが、前年秋に農家と協議しての契約栽培だ。
朝、農家から運ばれてきた野菜が、その日の昼と夜にはこどもたちと青年ボランティアの胃袋に消える。
夕方に、こどもたちがお礼を述べに農家にお邪魔するコースもある。
農家のおじいま(おじい様の意味の方言)やおばあま(同じく)は、うれしくないわけがない。
それどころか「家族に食べさせるような野菜を創る!」と宣言し、農薬を減らしたり有機栽培に移行していく農家も多い。

そんな農家のおじいまが、8月中旬にキャンプ場にお話をしに来てくれた。
キャンプ場のある集落に住む遠山さん。
遠山さんは、私たちが泰阜村に住み始めた33年前からずっと支えてくれる筋金入りの応援団だ。
そしてキャンプ初日定番のメニュー“山賊○○”の材料のひとつをずっと作ってくれているのだ。
キャンプ場に来た遠山さんにまずお礼を言うと、すぐに「いつもいつもご苦労さんだな辻さんは。今年は何人くらいこどもが来てる? ところで辻さんは田んぼの草刈がおろそかになっているようだが・・・」といつもの長い長い説教が始まった(笑)。
こりゃいかん、とこどもたちの前に登場してもらう。
野菜を育てる苦労話、自然との向き合い方、そして戦争は絶対ダメだぞと。
こどもたちの真剣なまなざしと活発な質問に、いつも話が長い遠山さんは、今日も輪をかけて長かった(笑)。
そのやりとりの中で、こどもたちは「この人が作ってくれた野菜を食べてるんだ」と、確かに実感した。
遠山さんもまた、「わしが作った野菜ががこのこどもたちの胃袋に届くんだ」と、確かに実感した。
こどもたちに見送られ「まだまだ野菜を作らにゃならんなあ」と、笑顔でキャンプ場をあとにした。

手塩にかけた野菜が、確実に「このこどもたち」の胃袋に消える。
そんな“顔の見える生産者”ならぬ“顔の見える消費者”の存在が、こんなにも農家の意識を変えていくことを目の当たりにしてきた。
「農家冥利に尽きる」と満面の笑顔で語るおじいま、おばあまは、現金収入と共にやりがいも手に入れた。
これが、地域経営、地域の産業化、というものだ。
経営はお金をまわすだけではない。
人も気持ちもやりがいもまわすことである。
産業のない地域といわれる山村。
そんな山村の経営循環に、山賊キャンプという「学びの仕組み」が役割を果たしつつある。
たかが山賊キャンプ。
されど山賊キャンプ。

代表 辻だいち