ベストセラーよりロングセラー

「奇跡のむらの物語~1000人の子どもが限界集落を救う!~」
私が11年前に出版した本である。

先日、出版社から連絡があった。
増刷ということらしい。
そもそもそんなに普及されるとは思っていなかった。
何十万部と売れているわけではないから、増刷といってもおそらくロットは少ない。
それでも、増刷と聞くと、書いた張本人としてはうれしいものだ。

東日本大震災の2011年に出版。
その後、何度か増刷があり、現在7刷。
ハングルに翻訳されて、韓国でも出版されてはいる。
決してベストセラーではない。
そんなわけがあるはずがない。
でもね、みなさん。

おおがかりな宣伝や広告をすることなく、静かにじわじわと読者が広がっていく様。
それはなんだか、私たち泰阜村の生き様らしいではないか。

読んだ人からの読みうつし、口うつし、手うつしで、この本が広がっているといいな。
そしてこの本に記された内容や想いも広がっていくといいな。
ベストセラーよりロングセラー。
そんな本であってほしい。

東日本大震災の大混乱の最中に世に出された。
そして今、コロナウィルス、ウクライナ戦争、未曽有の円安の大混乱の中で、再び世に出されていく。
宣伝するつもりはまるでないが、もしお時間があるようならぜひお読みいただきたい。

今一度、11年前に書評などで紹介された記事を2つほど紹介する。

●日本教育新聞の書評記事●
「協働が生む村に回帰の教育」

 過疎の村に子どもたちの声が響く、それだけで村が元気になる。かつて短期山村留学を仕掛けた地元の人たちからこんな思いを聞いた。だが熱い思いがあったとしても継続させていくことは難しいという現実が一方にはある。
 本書が紹介する山村留学はとてもパワフルだ。舞台は長野県下伊那郡泰阜村。25年前に仕掛けたのは、地元の人たちではなく、「ヨソモノ」のNPO法人グリーンウッド自然体験教育センターの若者たち。「山村」「教育」「NPO」の「金にならない3点セット」が常識を覆す。村人を巻き込み、全国の若者を巻き込み、活動自体が活性化し、発展していく。
 村の暮らしの学校「だいだらぼっち」から、文科省・農水省連携事業の「子ども長期自然体験村」事業を契機に、村人との協働がスタート。村の住人を山賊に見立てる「信州子ども山賊キャンプ」には、夏と冬の長期休暇中、人口1900人の村が、千人を超える子どもと300人を超える青年ボランティアリーダーでにぎわう。村人自身も加わって、「案じることはない」という意を持つ、「あんじゃね自然学校」が生まれ、運営のかじ取りを話し合う会議「あんじゃね支援学校」で大人たちが学び合う。
 「村を捨てる教育」から、村に回帰する教育へと大きく変貌する様子がわかる。今、教育に何が足りないか、痛感させられる快著

●日本農業新聞の書評●
「山村留学で価値見直す」

 東京から高速道路を使って5時間以上もかかる長野県泰阜村で、1986年からある特定非営利活動法人(NPO法人)が山村留学を始めた。エコロジーとう言葉もなかった時代、この村の環境こそが子どもたちを健やかに育むと信じて活動をスタートさせた。本書は、NPOメンバーの25年間にわたる活動を振り返ったノンフィクションだ。
 全国から村に集まった子どもたちは、共同生活を送りながら、自分たちで田畑を耕し、食事を作り、薪で五右衛門風呂を沸かす。山や川で遊び、時には村の猟師が罠で捕まえたイノシシの解体に立ち会う。なんとも不便で、そしてこれ以上にないほどに贅沢だ。読むほどに、ここで暮らし、学ぶ子どもたちがうらやましく思われてくる。
 「わしゃ、そこにある山をどかしてほしいと、いつも思っていた。不便だし・・・中略・・・でもな、都市の子どもと触れ合うことで山の持つ価値がわかった」
 当初、活動に懐疑的で非協力的だった住民も、徐々に自分たちの持つ財産に気づき始めた。子どもたちが目を輝かせて戯れる川、空、星、田んぼ、そして村人の知恵。子どもたちと触れ合う村の老人たちは「限界集落ではなく“現役集落”」と胸を張る。
 今では、村とNPOが一体化、さまざまなプロジェクトを立ち上げるが、その信頼関係は一朝一夕に築かれたものではない。
不便で、何をやるにも時間がたっぷりかかる。それでも、こんな素敵な村をつくれるなら悪くない。日本全体が立ち止まり、自分たちが進む道を考えるべき今、この本から学ぶことは多い。

代表 辻だいち