暮らしの中にある「自律」|2022教師・指導者育成プロジェクト~ふーみん11月の研修報告~

 11月の目標は、「日々のコミュニケーション」でした。具体的なアクションとして、帰宅したこどもたちに、1人ひとりの名前を呼んで、相手の目を見て「おかえり」と言うことにしました。今までは、反応してくれるかな?しつこいかな?と心配していましたが、挨拶もコミュニケーションの1つと考え行動していました。この行動の成果なのかは分からないけれど、学校での話や夕飯に食べたいものの話など他愛ない話など、こどもたちとの小さなコミュニケーションが増えたように感じます。活動としては、稲刈りや山仕事など秋を肌で感じる作業を経験したり、12月に行われるだいだらぼっち祭りに向けて劇の練習や係に分かれての仕事をしたりと、忙しく楽しく過ごしました。今月の振り返りでは、山仕事と暮らしの中での気づきの話をします。

 まず、山仕事の話をします。登り窯で陶芸作品を焼くための薪をこどもたちが森から運び出す「山出し」作業の事前準備として、森の木を切り倒したり、山出しする斜面の整備を相談員が数日かけて行いました。山出しの目的は、薪を集めることだけではありません。木を切り倒すことで暗い森が明るくなり、山の保全につながっています。私は、こどもたちが山出しをするところの下草刈りや、切り倒す木にワイヤーをかけて引っ張る作業を行いました。
 4月にもこどもたちと一緒に山仕事をしましたが、今回の作業の方が楽しかったと感じています。今回は、研修という形で色々な作業を実践しました。例えば、ナタやノコギリで下草刈りをする、木を切り倒す方向をコントロールするための滑車やワイヤーを設置する、チルホール(ワイヤーを張る道具)を動かし、木が切り倒される瞬間を目の当たりにするという経験をしました。本格的に林業に携わったのは人生で初めてです。

 今回の山仕事に3回携わりましたが、最初から具体的なイメージを持って、高い緊張感を持って仕事ができたわけではありません。自分の手で道具を設置したり、使ってみたり、木を倒す現場を近くで見たりと経験を重ねるたびに、作業内容の見通しを具体的に持てるようになりました。それは、山出し当日をイメージすることにも役立ちました。「この急斜面に切り倒した木を下に引いて、あそこに置いた車に積んで持ち帰る」という説明を理解したつもりでいても、「どこから?どこへ?どの木を?どうやって引くのだろう?」と疑問が湧いてきました。こどもたちの動きを考えて「この木は邪魔だから切ろう」「滑りやすいこの場所はどうしたらよいかな?」など、頭を使うことも増えました。このように、疑問をもち自分にできる仕事を考えられるようになったのは、こどもたちとの動きを把握することの大切さに気付き、山仕事の具体的なイメージを自分で描けるようになったことが影響していると思います。
 相談員のなおみちから、今回の山仕事の目標は「作業する一人ひとりが自律して動けるようにすること」だったと聞きました。私は自律して行動できたかを振り返ると、作業のイメージはぼんやりしていたので事前にもっと理解できていれば1回目からこどもの動きを意識してもっと動けていたなと思いました。限られた作業時間の中で、分からないことを聞くことを躊躇してしまった自分もいました。今後は、分からないことや不安なことは躊躇せずに表面化すること、事前に作業内容を具体的にイメージすることを実践したいです。

 次に、暮らしの中で気づいたことの話をします。今月は、「自分の仕事の先に、何をこどもたちに伝えたいかがある」ということを考えさせられました。私は、学校から配布されたお便りをこどもたちから回収するという役割を担っています。提出期日のあるものや学級通信など、現役家族の保護者の方たちに目を通していただくためです。配布物をなかなか提出してくれなかったり、提出期日のあるお便りを失くしたり、学校に忘れたりしてしまうこどもたちに「毎回声をかけているのにどうして?」と苛立ちを隠せないことが、これまで時々ありました。
 今月もお便りをめぐるこどもとの駆け引きがあり、念入りに声かけをしたり朝必ず見る場所に置き手紙をしたりと、あの手この手で工夫をしましたが、本人たちには伝わらずどうしたら良いのか分からないでいました。そんな時に相談員のおらふから、「学校からもらったお便りを自分で提出するというたったそれだけのことだけれど、期日を守ることはほかのことでも大切なことだということや責任感が育つように伝えることは、こどもたちの行動そのものを育てることにも繋がっているよ。ふーみんは、こどもたちにどうなってほしいのか、ちゃんと考えて伝えてごらん」とアドバイスをもらいました。私はこの言葉を受けて、自分に与えられた役割をこなすことしか考えていなかったなと反省しながら、だいだらぼっちでの暮らしには、こどもたちの自律を育てる小さなチャンスが散りばめられていることを実感しました。また同時に、自分に与えられた役割を通してこどもたちとの関わりを生み出せることに気づきました。こどもたちと同じ土俵に立って考え、楽しみ、実感することを大切にするのは継続しつつ、こどもたちにどうなってほしいかという視点も加えて、暮らしていきます。

 もう1つ、何気ない日々の中で心に残っている出来事がありました。こどもと一緒につる細工に使うためのつるを加工する作業をしていた時のことです。「モヤモヤしていること」の話題になり、手を動かしながらおしゃべりをしていました。この1週間前に行なった、だいだらぼっち祭りで行う劇の役を決めるオーディションについての話でした。ある子は結果が思い通りにいかず、自動的に残り1つになった役にならざるを得なくなりました。自分1人だけが何の役のオーディションにも合格していない状況に納得がいかないという素直な気持ちを、話しているうちに打ち明けてくれたのです。モヤモヤの理由は、「残り1つになった役でも、オーディションをして、みんなに認めてもらったうえで役を引き受けたい」ということでした。この1週間そのことを言わないまま過ごしていたこの子の、本当の気持ちに出会えた瞬間でした。ものづくりが「対話」を生む時間にもなるという豊かさを実感しました。
 なぜ、ものづくりの時間がこどもとの対話にとって良い環境だったのでしょうか。つる細工をする時間が、相手にとっても私にとっても落ち着く時間だったからだと思います。だいだらぼっちは共同生活の場で、いつも色々な人が色々な場所で何かをしています。しかし、つる細工を2人でする時間には2人だけの世界があります。また、ものづくりをしていると「自分の今の気持ちが作品に出るなぁ」と呟く子もいます。ものづくりは自分と向き合う時間であり、その時間を誰かと共有していると、つい素直な気持ちを伝えたくなるのではないかと思います。私にとってものづくりの時間は、暮らしに必要な物を考え、ノートにネタを増やしていったり、自分の手で形にしていったりするといった、自分1人での作業に没頭する豊かさを感じられる時間でした。しかし今月は、こどもとものづくりの時間を一緒に過ごしたこと、こどもが自分の気持ちと素直に向き合い、言葉にして伝えてくれたことに大きな喜びを感じています。日々のコミュニケーションの積み重ねが深い対話に発展し、信頼関係を深めるのだということを学びました。

 こどもたちとの日々の関わりの中で、イライラしたり、豊かさを感じたり、色んな感情が揺れ動きます。私にとって11月は、相手に何を伝えたいのか、何を応援したいのかを考えて行動し始めた月でした。今年も残すところあと1カ月です。一番力を入れたいことは「だいだらぼっち祭り」です。だいだらぼっち祭りでは劇を行います。私は、劇で行うダンスの振り付けを任せてもらいました。任せてもらったからには格好良い、感動する舞台をこどもたちと作りたいと考えています。既に始まっている劇の練習では、こどもに負けないくらい相談員の熱がすごいです。恥ずかしさなんて微塵も見せずこどもたちの前で演じ、全員を引き込んでいきます。こんなに大人が、こどもたちと面白いものを作ろうと本気になって良いんだ!と驚き、私も本気で向き合いたい、殻を破って楽しみたいと感じています。遠慮がちな自分ではなく、表現することが好きな自分でだいだらぼっち一家と関わっていきます。

11月担当スタッフ なおみちのコメント

 自分の持てる力をどう発揮するか考えた山仕事や、毎日の一人ひとりとの悩めるやりとりなどを通して、ふーみんは自分の関わりを客観的に見つめ、考えを深めることができました。相手にどんな育ちを願うのか、それをどんな風に伝えたらよいのか、どんなステップを提案してあげられるのかなどについて考えることは、相手をよく理解しなければ、また信頼関係がなければ到底難しいことです。
 自分を知るための時間を意識的に持ったことも、ふーみんにとって自分を整えるよい時間となったのではないでしょうか。結果、相手を知る力や共感力を手に入れたように思います。こどもたちを一番近くで支えるふーみんが、丁寧に毎日を紡ぐ姿勢は浸み込むように伝わっています。ふーみんの、悩むこともチャンスと捉える前向きな力強さとこどもたちへの素直で優しい眼差しが、こどもたちをいつも勇気づけてくれています。ますます深まる学びを、そばで応援しています。