だいだらぼっちの卒業生にインタビュー (2012-2013年度参加) マリオ

だいだらぼっちは自分にとって”一歩立ち止まらせてくれる”そんな場所。無理して焦る必要はない、と振り返らせてくれるのが私にとってのだいだらぼっちの位置付けだと思っています。

だいだらぼっちの卒業生にインタビューするこの企画、今回はだいだらぼっち27期生のマリオです。

マリオは、だいだらぼっち二十七年目から二十八年目(2012~2013年度)に、小学5・6年生の二年間をだいだらぼっちで過ごしました。マリオの学年はそれまで男子のいないクラスで、マリオの入った年は二人の女子と三人の男子というだいだらっ子が入り、この初男子三人がこのクラスの泰阜っ子女子にカルチャーショックを与えていました。(“理解不能の生き物”と称されていました:笑)面白いこともたくさんしていたけど、基本は素直で人懐っこいマリオは、この男子のいないクラスの女子のお父さんに気に入られてかわいがってもらっていましたっけ。勉強は嫌いだったけど芸術的センスは抜群!モノの形をとらえるのが天才的で、何かの図形の展開図をすぐにかけるので驚いたという記憶があるくらい、モノの構造を理解する力にとても長けていました。そのマリオは今どんなことをしているのでしょうか。それではインタビュースタート!
                       
ーマリオ、こんにちは、お久しぶりですね。早速ですが、まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 

こんにちは、2012年、2013年にお世話になっていたマリオです。参加していたのは小学5・6年生のときで、まだ鶏小屋も建っていなかったタイミングでした。今は大学4年生でアメリカの大学に映画学部生として卒業を控えています。

 

ーアメリカといっても広いので、どこら辺に住んでいるのか教えてください。また、映画学部でどんなことをしているのですか?

 

今はアメリカのロスアンゼルスのロングビーチというところにいます。最近話題の大谷選手が所属していたエンゼルススタジアムまでは車で20分ぐらいのところです。基本的には学生生活を忙しくさせてもらっていて平日の学校が終わったら筋トレをして土日も学部の撮影があったりと楽しいながらも忙しい日々を送っています。
現在僕が専攻しているのはシネマティックアーツと呼ばれる学部の中で、シネマトグラフィーと呼ばれるものについての知識を深めています。日本語で言うと撮影監督、DP、だったりさまざまな呼び方がありますが、監督が役者さんにどのように演技をしてもらうのかとか、動きをどうするかを決める一方で、DPはその演技をどのようにスクリーンに収めるかを考える役割です。
一口に映像に収めると言ってもカメラだけではなく、どのように照明を対象に当てるのか?特効は使うのか?撮影時の時間は?レンズは?など挙げ出すとキリがないほどの要因をコントロールするかなりマニアックな内容です。マトリックスの有名なのけぞりながら銃弾を避けるシーンや、ターミネーター2の溶鉱炉に沈んでいくシーンも、DPの機材に関する知識が監督のアイデアと合わさることで実現しています。監督が視聴者に伝えたいと思っていることを具現化することが学んでいることの一つです。

ーマニアックで面白そうですね。マリオが好きそうな感じがします。マリオのご両親も舞台演出だったり、プロデューサーだったり、映像に関わるお仕事をされていますけど、やっぱり影響してるのかな?
ところで、何でアメリカに行こうと思ったのですか?

 

僕が高校を卒業した2020年はコロナが猛威を振い始めた年でした。そのタイミングでは他の人と会うこともできなくて、孤独になる時間がたくさんありました。そんな時に自分の人生について考える時間ができ、そこでふと冷静に自分を見つめ直すことになりました。
日本の大学へ行くと言う考えはもともと頭の中にはありませんでした。と言うのもあまりにも勉強ができなかったこともありますが、何より努力してでも入って学んでみたいと思えることが見つけられなかったからです。そこでアメリカならとりあえず英語さえできるようになれば入学できることを知ったので18の頃から英語を勉強して渡米しました。

 

ーアメリカの大学って英語ができたら入れるのですか!? ビックリ!!もちろん全部の大学がそうって訳じゃないとは思いますけど…。
渡米してよかったと思うことや、一番の思い出などあれば教えてください。

 

話をしていると完全に自分とは価値観が違うということがよくあります。食事に関してだったり、文化に対しての意見、宗教、倫理観などなど…。これらが結果として今まで自分が目を向けていなかった場所に気づかせてくれた、ということが、渡米をして良かったと感じる部分です。
特に日本にいた時には気が付かなかった日本の魅力は凄まじく、夏休みで日本に帰ってきている今は、日本の良いところしか見えてきません。
2年前の冬には美味い食べ物とお酒を求めてヨーロッパに旅に行ってみたりもしました。デンマークから入り、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツなどを回ってみました。アメリカからの飛行機代はLCCならばそこまで高くないので、時間はとんでもなくかかりますが別の国に行きやすいです。
今までは日本語しか話せませんでしたが英語はほとんどどこでも通じるので、バーなどで友人や飲み友達ができた時はとても嬉しいです。

 

ーなんて言うか、小学生の頃のマリオを思うと、すご~く大人になったんだなぁっていうことと、英語、めっちゃ勉強したんだなぁってしみじみ思います。
渡米してでもいいし、中学高校通して今まででもいいのですが、これまでで大変だったことや困ったことはありますか?また、それらをどう乗り越えてきましたか?

 

やはり英語です。僕は頭が良い方ではなかったのですが、渡米を決めてからのおよそ1年間は流石に勉強しなければ!というモードに入りました。18年間ほとんど触れてこなかった分Be動詞からやり直しました。ただ自分の性格上人と話すことは得意で、英会話という部分においてはほとんど苦労した覚えはありません。また、1年間は勉強をしつつ新聞配達をしてお金を作っていたので、朝の2時から6時まで朝刊を配って8時から14時まで英語の学校に行き、15時から19時まで夕刊をくばってそこから課題をやって23時ごろに寝る生活を1年間繰り返していました。しかもコロナ禍だったためにほとんど人と会うこともできず、流石に精神的にそして肉体的に堪えたことは覚えています。日常的に悩み事を抱えてはいるのですが、大抵の場合忘れてしまうので大した悩みは持ったことがなかったのでしょう。(笑)

 

ー(笑)。そんなこともないと思いますけどね。

さっきも話に出てきましたが、渡米して、日本にいたときには気づかなかったけど、改めて思う日本のいいところってどんなところですか?逆にこれっていまいちだよね、って思うことはありますか?

 

圧倒的にご飯が美味しいという点だと思います。日本人の血液でもある生卵、レバー、刺身のようなものは、アメリカではほとんど食べる機会がありません。もちろん完全にないというわけではありませんが、黄身の味が薄かったり何処か新鮮さを感じられなかったり…。改めて日本の食事のレベルの高さが、家庭レベルからレストランレベルまでの幅広いレンジで感じられます。
イマイチだと思う部分は日本人の日本に対しての考え方です。よくニュースなどでは他国と比べて悲観的になっている部分が多いと感じます。確かに比べるのもいいですが、それ以上に今自分たちが持っている良い部分にもっと目を向けるべきだと感じます。GDPがドイツに抜かされて世界4位に転落した?いやいや、むしろ今でも4位を維持できていることを誇りに思って欲しいです。世界には190を超える国があるうちの4位ですよ?!校内成績で 4/190 で嬉しくない人いる?(笑)

ー確かに。5本の指に入っているのですから、成績優秀です!(笑) 日本人は自己評価低いけど自尊心は高い気もしますよね。これってもしかして面倒くさい人種なのかな?(笑)
アメリカで暮らしてみて、自分が変わったな、と思うことはありますか?あるとしたらその変化についてマリオはどう思っていますか?

 

正直自分はあんまり変わってないような気がします。多分だいだらぼっちにいた時から。ただ中学生の時や高校生の時の自分に比べると、物事を俯瞰的に捉えることを意識するようになりました。結局議論が起きているときにはそれぞれの考え方があってそれを民意で潰すのはとてももったいないことだと思います。もちろん今日の晩御飯のメニューは?カレーまたは焼きそば?のような場面では民意や自分の欲を優先するべきですがそれ以外の場合は相手がなぜそう考えるのかを意識するようなりました。

 

ーマリオの言う「民意」って、多数派っていうことかな?

 

そう、多数派。

 

ー何で相手の考えていることを意識するようになったのですか?

 

多数決で決められたことの中にある、埋もれる良い意見を見失いたくないから。

 

ーだいだらぼっちでは多数決採らないですからね。

マリオがいたころのだいだらぼっちはどんな感じでしたか?

 

自分がいた2012,2013年はとても平和な印象でした。もちろん日常的な小さなトラブルはありましたがそれぞれの意見が尊重され、年齢関係なく支え合うことができた年だったと思います。

 

ーそうですね、言われてみれば平和だったかも。いつだってみんな必死ではありますけどね(笑)。
当時の出来事で一番印象に残っていることはなんですか?また、面白エピソードがあったら教えてください。

 

しんちゃんが突然言い出した、”ニワトリが飼いたい”という発言だと思います。果たしてしんちゃんが言ったかどうかも覚えてませんが(笑)、そこから2年に及ぶ長すぎる鶏議論が幕を開けました。どんな品種を買うかで名古屋コーチンと白色レグホンの二択が残り、確か何人かを納得させるために一ヶ月ほど話し合った気がします。鶏小屋建設は設計から考え大工さんにも手伝ってもらって印象に残っています。そして鶏を飼い始めて何ヶ月かしたときにオスが一羽多いからどうしようという話になりました。内容は映画の”ブタがいた教室”とほとんど同じで、最終的にはみんなで食べようという話になりました。みんなで一日吊るした鶏を見守りながらそこで初めて”死”と”生”を体感したことを覚えています。

ー食べることと生きること・死ぬことは実は直結してますからね。ほんとに長い話し合いでした。
そんなだいだらぼっちでの暮らしは今のマリオにどんなふうにつながってますか、あるいはどんなふうに位置づいていますか?

 

基本的にずっと自分がしたいことはなんなのかということについて悩んでいました。子供の頃から勉強が苦手で、それでも周りの環境や周囲の視線からとりあえず学校に行っていることが小学生の頃から続いていました。基本的には家にずっと一人だったので、机の上に置かれたご飯代の3万円は大抵の場合ゲームを買ったり、小学生には十分すぎる金額でした。夜遅くまで遊び回っていて、周りの友達には家に帰らなくて良いのかと聞かれたこともありました。そんな9歳ぐらいの頃に母からだいだらについて聞かされました。今思えば”休息”が欲しかったのかな?とも思えますが、単純だった自分は面白そうという理由で長野県に向かっていました。そこでの生活は自分にとって不思議の連続でした。でかいクマ(もーりぃのことです:笑)と中学生が木を削っていたり、あまりにも味が薄い味噌汁、どこに足を踏み入れれば良いのかわからないほど荒れた部屋などなど…。自分の今までの生活にはなかった新しいものがこの場所では見つけることができました。だいだらぼっちは自分にとって”一歩立ち止まらせてくれる”そんな場所だと思います。

20歳の自分は想像もできないほど大人になっていてかっこよくなっていると思っていました。でも実際は数字だけが増え、少し体が大きくなっただけで、これからはもっと大きな社会というものに立ち向かっていかなければならないと考えると焦る気持ちが出てきてしまいます。そんなときに無理して焦る必要はない、と振り返らせてくれるのが私にとってのだいだらぼっちの位置付けだと思っています。

ー小学生の頃のマリオが何も考えていなかったとは全く思ってないのだけど、これだけ深く考えているマリオを思うと本当に涙が出てきてしまいます。真っ直ぐに育ってるね!

そんな真っ直ぐなマリオが今夢中になっていることはありますか?あれば教えてください。その魅力も!

 

最近はカメラにハマっています。もちろん今学校で学んでいる分野なので当然ではあるのですが、映像作品を私たちが楽しむためにはより多くの知識があった方が”なぜ”この映像は感動的なのか、迫力があるように見えるのか、不安になるのかを明確に言語化できます。撮影するときも被写界深度をどれぐらい深くするのかによって、背景とオブジェクトの印象は大きく変わってきます。最近のスマホでも簡単にF値と呼ばれるものも変更できるのでぜひ試してみてください。そしてもしそれらに満足ができなくなったら、ぜひカメラとレンズを買ってみてください!

 

ーハマる人が続出したらマリオのおかげ?マリオのせい?…(笑)。そんなマリオの夢を教えてください。

 

実はまだ探している最中なのですが、アニメーションを世界にもっと広めるような仕事がしたいと考えています。学校にいると音楽や映画の話になるように当然のようにアニメの話になります。これは自分の周りがオタクが多いからではなく圧倒的アニメ人気によるもので、私たちが日本の中から見える以上に海外ではアニメーションや漫画の人気が根強いです。ジムではマッチョたちがパンプさせながらモニターで悟空がベジータと戦っていたり、瞑想する宮本武蔵のTシャツを着ながらバーでショットを交わすおじさんがいたり、明らかに場違いな無量空処を行う五条悟ポスターが、ハンバーガーショップに貼られていたりと、それらを見つけるたびに嬉しくなる反面、もっとアニメの魅力を伝えたいという気持ちになります。そして日本でのアニメに対しての考え方も、サブカルチャーとしてではなく、より世界に誇れる”アニメ”としての魅力を再認識させたいです。

 

ー最後に今のだいだらぼっちのこどもたちにメッセージをお願いします!

 

時間が流れるのは早い。今している話し合いも、晩御飯の当番決めも、一生終わらない薪割りも、結局全部思い出に変わるからこそ今を楽しんで。そして10年ぐらいしたら絶対に思い出すから その時はちょっと振り返ってみて。

 

ーとっても素敵なメッセージをありがとうございました!マリオがだいだらぼっちにいたのはついこの間のような気がしていましたが、10年以上経っているんですね。なんとも感慨深い…。
今日はありがとうございました。

小学生のころから本当に素直だったけど、その素直さはそのまんまにとっても優しい、いい大人になっていて、本当に涙が出てきてしまいました。このマリオがつくる映像が一体どんなものになるのか、広めてくれるアニメがどんな魅力を放ってくれるのか、マリオがそのまんま表されるような作品が世に出てくる日を楽しみにしています。