目的を見失わないこと|2024長期インターン(のいびー)

 だいだらぼっちでは暮らしのものづくりの一環として、陶芸で作った食器や作品を焼く「登り窯」があります。焚き上げの1200℃を目指し、こどもたちが中心となって3日間焚き続けます。

 私は登り窯の火入れ(点火)を取り仕切る「火入れ隊」として、4人のこどもと一緒に火入れ式の内容を考えることになりました。どんな式にするか話し合いを重ねますが、なかなか簡単にはまとまらず、意見は2つに分裂しました。

 今まで火入れの経験がある2年目、3年目の子は、自分たちの経験から「厳かな雰囲気だからこそ、静かにそれぞれの思いを話してマッチで落ち着いて点火したい」というマッチ派。
 私を含め、登り窯を初めて経験する子たちは、「登り窯は自分たちで作った作品を自分たちで焼く。それなら火も自分たちで作りたい。もみ切りで始めたい。」というもみ切り派。

 それぞれ思いが強いからこそ、一歩踏み外すと互いの意見がぶつかり合い、2つにぱっくり割れてしまいそうな雰囲気でした。しかし、今までの話し合いの経験があったからこそ、意見をつぶすようなことは全くなく、どうにか折衷案はないかと頭をひねらせました。私も自分の作品への思いや、みんながどんな姿で作品を作ってきたかを目の当たりにしてきたので、この火入れへの思いはどうしても譲れず、一緒になって熱く語っていました。上手くまとめようとか、結論を導き出そうとかそんな簡単な問題ではないことも実感していたので、相談員として仲間として話し合いました。

 それでも1週間かけても決まらないため、一人一人火入れ式のイメージを持ち寄ることにしました。すると、今まで同じ意見だと思っていた人が全然違う考えを持っていたり、真逆の意見だった人が繋がっていたり。それぞれの「大切にしたいもの」が明確になったことで、5人の意見は2つに分けられないことに気付かされました。互いの意見の間を取りながら、ようやく火入れ式の流れが見えてきました。
 火入れはもみ切りで火を起こすことに決まりました。

 すぐに、もみ切りの練習が始まりました。本番は全員で行いますが、火入れ隊が段取りと手順を知らなければ何時間経っても火は起きません。道具を作り揃えるところから始まり、回す人、押さえる人に分かれてチャレンジしました。しかし、火起こしを教えてくれたもーりぃがいなくなると、全く火が起きることはなく、黒い煙と板に穴が開くばかり。力を弱めてみたり、もーりぃにアドバイスをあおいだり、火種ができるまで10回、20回と毎日もみ切りをしていると、次第に火入れ隊以外のこどもたちも参戦してきて、火入れ隊もマッチ派が一番夢中になって、手の豆が潰れるまで練習しました。
 普段はマッチを使って一瞬で火をつけている暮らしでしたが、自分たちの力だけで火を作る大変さを痛感しました。

 そうしているうち、はじめて小さな小さな火種ができたことがありました。削りカスの中に赤い火種が見えて、みんなで歓声を上げて喜びました。全員が感覚を掴んだそんな瞬間だったように思います。
 それから毎日必ず火種を作れるようになりました。回すスピードや押さえる感覚も慣れ、それぞれの得意な役割も決まってきました。

 しかし、火入れ隊が火入れ式の内容をやる気満々に全員に伝えた本番前日、他のこどもたちや相談員からもらった意見は、
「時間かなりかかっちゃうんじゃない?」
「登り窯まで火を運ぶのは風も強いし難しいと思う。」
当初火入れ隊の意見が割れていたものを少し無理やりにまとめた案でもあったため、盲点になっていた部分がいくつかあったのです。もう一度火入れ隊で話し合いたかったのですがなかなか時間も合わず、こどもたちの間を一人行き来してあたふた相談して回るばかり。

 なぜ私一人こんなに焦っているのかとふと我に返ったとき、一番重要だった「目的」について火入れ隊で話し合えていないことに気付かされました。普段、だいだらぼっちでは畑や田んぼをするときも、祭りや説明会などのイベントを行うときも、必ず「目的」から始まります。話し合いが停滞したときは、必ず「目的」に立ち返って考えます。しかし、今回は火入れ式を行うことを前提に、「どんな式にするか」という「内容」が先行して、なんのためにするのかを火入れ隊で統一できていなかったのです。

 思い立ったら話すしかない、すぐに火入れ隊で集まって目的について話し合いました。
『1年間かけて作り上げてきた自分や仲間の作品を焼き上げる気合い入れ。』
『誰も怪我なく安全に終えられることを祈願する。』
『今までに経験したことの無い窯の熱さと非日常の暮らしには協力と団結が必要不可欠なため、みんなの気持ちが一つにまとまる時間にすること。』
 それぞれの思う目的を互いに伝え合っていると、自分の主張にこだわるのではなく、どんな方法が目的に沿っているかを考えるようになっていきました。「目的」が見えると「内容」が見通すことができる。そこに火入れ式をする「意味」ができる。話し合いの核となる部分が「目的」に隠れていたのだと気付かされました。

 当日は放課後火入れ隊全員が登り窯前に集まり、それぞれができる準備をすすめました。火入れ式では、見えない努力を毎日重ねたからこそ、火入れ隊がもみ切りに入ると必ず火が付くという安心感もありました。

(全力・全身・全員で焼き上げるを目標に「全」の一文字を焚き付けに)
(安全祈願のこだわりのお供え物。左から、海水から作った塩、今年のだいだら新米、松の葉で作ったサイダー。手作りのだるま。)
(火がついた瞬間。全員で作った火が燃え上がる。)

 こだわり抜いた火入れ式を無事終えて、自分たちで作った火が登り窯に点火されたとき、安堵の気持ちと言葉にできない充実感で初めてこどもたちと嬉し泣きしました。きっとこの火入れ式のゴールは、点火ではなく、自分たちで決めた目的がしっかり達成されたことにあったのだと実感しました。


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