世界の誇り、やんばる ~自己決定権を強く発揮する集落との出会い~

今年も沖縄に来ることができた。
もう30回くらいは足を運んでいるだろうか。
沖縄での目的地は決まってここ、沖縄本島北部「やんばる(山原)」。
世界自然遺産にストップがかかった地である。
沖縄の風土がそのまま残る国頭村安田(あだ)という集落にいつも来ている。
これがまた遠い。
信州泰阜村から中部国際空港まで車で急いで2時間30分。
中部~那覇まで飛行機で2時間30分。
那覇空港から安田まで車で急いでこれまた2時間30分。
乗り換えの時間を考えると、9時間ほどかけないと到達できない。
もう、地球の裏側に来たような感覚にいつも陥る。
まあ、お互いが極限的にへき地同志なのだからしょうがない。
那覇空港でじっとりとした暑さにくるまれて、レンタカーのハンドルを握る手は重かったが、それでもやんぱるに車を走らせる。

▼さすがやんばる。ところ変われば標識も変わる。ヤンバルクイナ。

安田では旧知の中根夫妻が待っていてくれた。
やんばるの自然を舞台にエコツアーを実践されている、ま、いわゆる自然体験教育の仲間である。
詳しく話すと長くなりすぎてしまうので割愛するが、もうかれこれ20年ほど前に、東京でお会いして、へき地で地道な活動を重ねているもの同志、そしてその背景の想いに、意気投合して、今がある、というわけだ。

この集落の夜はすこぶる贅沢だ。
天然記念物のヤンバルクイナの大合唱が酒の肴になる。
簡単に「大合唱」というが、それが実現するには途方もない努力の積み重ねがある。
飛べないヤンバルクイナは、もちろん外来種マングースの餌食になる。
しかし、さらに深刻なのは、野生化したイヌ、ネコの餌食になることだ。
都市部から遠いやんばるは、捨てイヌ、捨てネコの恰好の投棄場になり続けてきた。
安田集落は、国や県、村にさきがけて、集落で独自の条例をつくって、捨てイヌ、捨てネコをさせない仕組みを創り、さらにネコの外飼いも禁じた。
それはまさに、自然との共生に向けた強烈な住民自治が発揮されてきたからにほかならない。
この地に通い続けた15年は、それを実感する時間でもある。

▼小動物が溝に落ちた時に、自分で這い上がれるように階段がある。これが数十メートルおきに設置されているのが、やんばる。

今、私は、この集落のひとびとが創るNPOの役員にも名を連ねている。
今回の訪問は、その総会・理事会に参加するのが目的でもある。

泰阜村のこどもや住民も、この集落に来た事がある。

小さな地域どうして新たなアクションを起こそうと、集落に住む仲間と共に杯を交わし、この国の来し方行く末を語り合う。
国やアメリカの狭間であまりにも自己決定権が弱い沖縄に、ここまで強い自己決定権を放つ集落があるとは驚きだ。
国に蔑ろにされ痛めつけられたこの地から、人間の本質的な強さが発揮されていく。
世界遺産に登録されなくとも、この地は世界の誇りである。

代表 辻だいち