関わり続けることをあきらめない ~”学びづらさ”を抱える短大生にエールを送る~

LINEにコメントが届いた。
「私の単位のためにたくさんの連絡をありがとうございました。とても助かりました」

あの学生がこんな感謝のコメントを書くのか!と、驚いた。
その日、短大の最終試験。
オンライン授業だったため、じゅうぶんな通信環境がなかった学生のために、何度か代替試験を設定する。
その最後の最後の試験だ。
直前までほぼ履修をあきらめかけていた学生が、なんとか試験を受けた。
その学生からのLINEだ。
ぶっきらぼうに退廃的なコメントを言い放っていた3ヵ月前とは、まるで別人のようだ。

以前の記事でも書いた。
名古屋の短大の授業を受け持ってもう9年目になる。
多くの女子学生を見続けてきた。
短大学生の学びの背景は、私たちが考えてる以上に複雑だ。
しかもオンライン授業が続き、ただでさえ“学びづらさ”を抱えた学生がさらに学びをあきらめていく。
対面授業ならSOSを出そうとしてる学生の顔色や態度などから、関りもなんとか確保できる。
しかし、オンライン授業の場合は、SOSをキャッチできないまま忽然といなくなる。
突然でなくとも、途中で「もういいや」と脱落していく学生も一定の割合で存在する。

オンライン授業ということもあり、何らかの事情で授業に参加できなかった学生の救済措置を大学側も考えてくれた。
授業の録画を視聴し、課題を提出すれば、それも出席となる。
この措置が、学びの場を彷徨(さまよ)い続ける学生たちにとって、良かった。
そして、私にとっても。

「始めはオンライン授業で戸惑うこともありましたが先生がネット環境が難しい子に対して録画での出席可能をしたりと沢山の配慮をしてくださりスムーズかつとても受講がしやすかったです。ありがとうございました」

履修をあきらめるな。
学びをあきらめるな。
オンライン上で声をかけ続けた。
LINEをし続けた。
きっと、学生にとってはうるさかったことだろう。
ウザイおっさんと想われたかもしれない(笑)
それでも私はあきらめなかった。
関わること、関わり続けることが大事だ。
“学びに無関心”になりそうな学生の心に、最大の関心を持つこ、持ち続けること。
関心とは“心に関わる”“心から関わる”だ。

「授業の進め方や内容は先生がオンラインということもあり、あとから録画を見れるようにしてくれたり、リアクションペーパーの期限を長めにとってくれたりと私たちに配慮してくれていることが伝わってきて、とてもよかったです」

あきらめなかったのは、実は学生たちだ。

声をかけ始めたころは、なかなか反応もなかった。
が、4月休校→5月オンライン→6月対面(私はオンライン継続)→7月再度オンラインと、授業形態がどんどん変動し、不安が増えていくのだろう。
6月下旬あたりから、学生からのLINEがどっと増えた。
その内容に悲壮感はない。
しかし明らかにSOSだ。
その多くは「どうすれば出席扱いになるか」「締め切りはいつなのか」「課題提出の方法がわからない」などなど。

夜にLINE来ることもあった。
非常識といさめずに、この時間にしかアクセスできない何らかの事情があるのでないかと想像して、対応した。
ツールの使い方など、私よりもはるかに知ってるだろうと思う。
それでも「わからない」と勇気を出して不安を言葉にしたその心に、ちょっとだけ寄り添う。
彼女たちは、少しばかり“段取り”がわからないだけだ。
学生の育ちや学びの余地を残しつつ、“段取り”を示すと、実はきちんと対応するものだ。
授業終了後から翌週の授業までの1週間に、そんなやりとりを続けると、懐疑的で退廃的だった彼女たちも徐々に心を開くようになる。
不安な心、折れそうな心が、ほんのちょっぴり和やかになったのかもしれない。

「オンライン授業はネット状況によって落ちたり止まったりするのが少し不便でした。でも辻先生は分からないことがあったら直ぐに回答してくださるのでとてもありがたかったです」

「今考えればオンラインの方が都合良かったなとおもいます。先生が優しくて助かった部分が沢山あり、感謝しきれません」

オンライン授業といえども双方向的・参加型の運営に苦心した。
グループワークが難しくても、自らの考えをアウトプットすることを少し求めた。
しかし「学びをオープンに」と言われても、他人との比較や自分が間違いを答えてしまう不安からか、なかなかシェアしない・できない学生たち。
おそらく小中高と、他人に認められたり他人を認めたりする経験が薄いのだろう。
極端に防衛反応を示す学生がいる。
「自分だけがこんな想いなのではないか」
「私だけが間違ってるのではないか」
全員が今想ったこと、今学んだことを、一斉に入力し、リアルタイムで見える化する工夫をした。
履修学生全員の今の考えが、リアルタイムで打ち込まれていくその現象に、歓声を上げる学生たち。
他の学生の学びに対して、コメントを促すと、おずおずと入力を始める。
自分の学びに対して、他の学生が真摯にコメントをしてくる。
それが「新鮮でおもしろく」「授業に参加しているという感じがすごくした」という。

「みんなが作ったツアーや写真を見て、他の人の多様な感じ方や考え方を知る機会ができ、楽しかったです。いつか泰阜村に行ってみたい、もっと知りたいと思える授業で、笑顔になれるような授業でした」

対面授業ならこんな感じにアクティブ

「対面授業ができなかったのはとても残念だった。しかし、オンライン授業でも先生が熱心に授業をしてくださったのでとても分かりやすく楽しい授業だった」

「初めての事で最初の頃はオンライン授業に不安があったのですが、徐々に慣れて行く事が出来ました。一回くらいは対面授業で出来たら良かったなぁと思います。残念です。オンライン授業でもこちらが明確に授業目的ややるべき事などが理解出来るような授業の進め方だったのでとても分かり易かったです。特に、授業内でチャットだけでなく、LINEを使ったやり取りは情報がすぐに先生と共有出来てとても使いやすくてよかったです」

授業内での学生同士の関わりが増えると、私との関わりも増えてくる。
それまでは単位をとるためにどうしたらよいかのやりとりばかりだったのが、他愛もないLINEも増えた。
正直、若い女子学生の会話にはついていけない自分がいる(笑)
でも、そんな他愛もないチャット上の会話が、彼女たちを励ますことにもつながるのだ。
そして笑いの絶えない会話は、泰阜村にひきこもる私にとっても、実は励ましにもなったのだ、今想う。

「辻先生、いつも優しく対応してくれて本当にありがとうございました!!!!!!!!!!コロナウイルス収まったら泰阜村行かせてねね!!!!!!!!がちで!!!!!!!!!」

そして、連絡がとれた学生は全員、試験を受けた。
快挙に近いと想う(笑)
その試験にもなかなかアクセスしない、コミュニケーションが一番難しい学生が、たった一人で最後の代替試験を受け終えた。
それが冒頭の学生だ。
私はそのLINEに最後の返信をした。
「一度も会えなかったけど、応援しています。これからも、がんばれよ!」

大丈夫だ。
君たちの周りには、君たちを全力で応援する大人がきっと存在する。
それを信じて生きよう。
君たちもそんな大人になるのだから。
いろんな事情や背景を抱えながらも、学びをあきらめなかった短大生に、心からエールを送る。

代表 辻だいち