学びの循環が生まれる日は近い ~小さな村の大きな挑戦~

2002年4月、泰阜村に小さな「伊那谷あんじゃね自然学校」が誕生しました。
「あんじゃねぇ」とは「案じることはない」「大丈夫」という意味の南信州の方言。
そこには、きびしい自然と共存しながら暮らしてきた先人の生きる知恵を、村の子どもたちに伝えていきたい。そして、子どももお年寄りも「案じることはない=あんじゃねぇ」と安心して暮らせる村にしたい、という願いが込められています。
毎月1回~2回、村の児童のうち1割~2割にあたる児童が参加します。

2007年、それまでNPOグリーンウッドが主導してきたこの自然学校が質的発展を遂げます。
「このままでは村の人々が大事にしてきた文化が村の子どもに伝わらない。NPOに任せるだけではなく、村に住む大人が力を合わせて伝えていかなければならない」と願う大人たち15人。
ゆるやかだが力強く地域教育を進めていこうとする村人が集まって会議が開かれることになりました。

この会議のことを「あんじゃね支援学校」といいます。
それは、読んで字のごとく「あんじゃね自然学校」を支える大人たちが学び合う場。
構成員は、小中学校、PTA、保育園、役場職員、青年団、NPO、農家、議員、陶芸家、少年野球コーチ、Iターン者、青年団など、20~70代まで職業も年齢もさまざま。
全員参加の会議は、年に4回ほど。
平日夜の開催にもかかわらず、多くの構成員が出席します。
村の子どもたちの未来のために、村の大人たちがああでもない、こうでもないと頭をつき合わせて考えたり、笑ったりする。
これまでも村の寄り合いなど集まる場はあったが、子どもをテーマに、こんなにもざっくばらんな集まりはこれまであるようで実はありませんでした。
活動の中心は20~30代の若手であり、地域内のNPOとIターン者、地元の若者が地域の教育財を見つめ直す先頭に立っています。

▼村の重鎮たちも集い、ざっくばらんにこども談義

都市部を機軸とした経済・教育政策によって、過疎農山村の二つのものが失われつつあります。
一つは、教育のありようを地域に住む人々が決めていく「教育の自己決定権」。
もう一つは、地域住民が少ない資源を持ち寄って地域課題を解決する「支え合い・共助の仕組み」です。
「あんじゃね支援学校」は、この失われた二つのものを取り戻すことを通した地域再生の取り組みでもあるのです。

「あんじゃね支援学校」のメンバーは、業種や役職といった壁を超え、今自分ができることや提供できることを会議に持ち寄っています。
それは、「支え合い・共助の仕組み」が、子どもの教育を通して、豊かにつくり直されていくきっかけでもあります。
多様な分野の人が集う横の広がりだけではありません。
小学生対象の「あんじゃね自然学校」をどうするか、という議論は、次にさまざまな年齢層が関わるという縦の広がりも生み出しました。
そして中学生や幼児の参加機会を増やし、近隣の高校生や大学生がボランティアに参加してくれるようにも。

週末のこども居場所の質の高さは、放課後のこどもの居場所への期待へと膨らみ、数年前から学童保育も手掛けるようになりました。
活動開始から16年。
地域の大人による良質な教育活動に関わったこどもたちが、今やそのまま村で就職するようになりました。
驚くべきことに、Uターンで帰ってくる若者も増え始めています。
彼らのこどもたちが参加し、「学びの循環」が生まれる日は近い。

小さな山村の住民、とりわけ村行政とNPO,そして学校が協働して山村が持つ教育力を信じぬき、「支え合い・共助の仕組み」を豊かにつくりなおすことを通して「教育の自己決定権」を発揮していきたい。
日本一の学びの村を目指す。
それは小さな村の大きな挑戦であります。

代表 辻だいち